チビスターズ第五話 ①
朝起きてみたら隣に刹那がいたのは、昨日の晩の記憶がおぼろげにでも残っているので納得できる。フェルトがベッドにいるのも納得だ。ロックオンが同様なのも、もちろん。けれども……。
「ハレルヤ……どうして床で寝てるの?」
片割れのその姿は……まるでいきなり頭を殴られて気絶し、そのまま放置されたかのようだった。布団が腹の部分に掛かっているのは…お情け、だろうか。とりあえず風邪をひく心配は無さそうなので、少しばかりの安堵を覚える。
それから、ティエリアはどこだろう。今まさに鼻を刺激している焦げた臭いと関係があったりは……するのだろう。
少々ではなくとても不安になり、アレルヤは刹那を起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。身じろぎをされたときは止まったが、変わらず寝息を立てる様子に胸をなで下ろした。別に悪いことをしているでもないのにこの反応は、と思わなくもない。が、やはり起こしてしまったら申し訳ない。
ハレルヤを踏まないように気をつけながら部屋から出て、リビングへと向かう。
進むにつれて強くなる刺激をあえて意識せず、恐る恐るキッチンを覗けば……やはり、というべきだろう。ティエリアがそこにいた。
「ティエリア……おはよう」
「アレルヤ・ハプティズムか。早いな」
「目が覚めて…で、君は何をしているんだい?」
「見て分からないのか?」
分かるから訊いてしまったんだけど……。
そう思ったが、あえて口には出さずに曖昧に笑う。
…ティエリアは、料理をしていたのだ。
おかしな事はない。今は朝で、もう少しすれば皆が起きてくる。そんな彼らのため……ではないだろうから、きっと小腹が空いたとかそういう理由だろう。おそらく彼はそんな理由で料理を開始したのだ。
だが…彼は忘れていないだろうか……マイスターの中で一番料理が下手、ということを。
作り方の本が有ればいいのだ。彼はそう言う物に従順だから、変なことは何もしない。普通の物が普通に出来る。
しかし、見渡してみれば本、と呼ばれる物すら置いていない。それが指すのはつまり、彼は何も見ずにやっているということ。
大問題だった。
「何を作って?」
「卵焼きだ」
「へぇ……」
それでは焦げた臭いの理由が無い。見たところ卵焼きの出来は普通だし、美味しそうである。日進月歩で、彼の料理の腕は上がっているのかも知れなかった。
が、焦げている何かがあるのは事実で…。
「そっちのフライパンは何をしているのさ」
「目玉焼きだ」
「…卵シリーズ?」
呟きながら、臭いの正体を突き止めたことに喜ぶべきか嘆くべきか、どちらをとればいいだろうと悩む。疑問が減ったのは嬉しいが、犠牲となった卵はわりと多めである。ここは……さて、どうしたものか。
というか、だいたい…どうして目玉焼きが黒炭になるのだろう。火の加減を間違えた……なんて言い訳は通用しないレベルまで至っている気がする。
「ティエリア、僕も料理してもいいかい?」
「構わないが…」
「じゃ、みんなの朝ご飯も用意するから手伝って?」
微笑みながら言う。指導者がいれば食材に犠牲者が出ないことは知っていた。
ティエリアは少し悩んだようだが、すぐにこくりと頷いた。了承してくれたらしい。喜ばしいことに。
早く皆が起きてこないかな、と思いながら、アレルヤはティエリアに指示を出すべく口を開いた。台になりそうな椅子を探しながら。背が低いのはやっぱり不便だ。
~そのころの寝室~
「…頭が痛ェ……」
「お……起きたか、ハレルヤ」
「俺はたしか昨日の夜…あぁ、そうだったな……思い出した…………あの眼鏡、殺す」
「……落ち着け。一人で行動するな。殺るなら俺も手伝う」
「ちょっと待て刹那!火に油を注ぐな!ってかいつの間に起きてた!?」
「ついさっきだ。…行くぞ、ハレルヤ」
「偉そうなのは気にいらねぇが…ま、今回は目ェ瞑るか」
「瞑るな仲良く殺りに行くな!」
「……おはよう…あれ?何か取り込み中…?」
数日間っていうことだから今回は良いけど、ずっと、それこそ一ヶ月とかでこのメンバーで生活したら大変なことになる気がする。