チビスターズ第四話 ⑦
「……どう?解体できそう?」
「まだ分からない。できるだけの事はするつもりだが……期待はするな」
不安そうなアレルヤに答えながら、単なる洋服の買い物だったはずの日常が、一体どこを間違えたら爆発物処理という非日常へと繋がるのかと溜息を吐く。有り得ないだろう、普通この状況は。
「一応の知識はあるが、専門的な物は分からない。広く浅く、というヤツだ。危ないと思えば、その後は手の出しようがない」
「けれど、少しは出来るんでしょう?いいな……僕は、全然出来ないから」
「……別に、出来なくても構わないと思う」
ポツリと刹那が漏らした通り、コレは確かに必要のない技能だ。持っていても、使える場面に直面することは滅多にないためだ。しょっちゅうその機会が有ったとしたら、むしろ『どういう生活を送っている?』という方に思考が行くだろう。つまりはそういう物なのだ。
では何故ティエリアが知っているかというと、それは何となく、である。ほんの少し興味が湧いたから調べてみた。それだけのこと。
幸いヴェーダの中にもデータは有ったので、それを閲覧して勉強した。近くにこんなことが出来る人間はいなかったから……いても反応に困るが。
思わぬ所で、思わぬ知識が役に立つものだ。
「いや……これは些か違うか…?」
「一人で何ブツブツ言ってんだよ。気色悪ィ」
「煩い。何も出来ない君に言われる筋合いはないが」
言葉を返しながらも、ティエリアの手は止まらない。こういう事柄は、早めに済ませてしまうに限る。
「ハレルヤ、刹那・F・セイエイを連れて地上へ上がれ。そこにいるだけで目障りだ」
「………テメェはよっぽど、俺にケンカを売りてぇらしいな…」
「何を言っている?俺は単に思ったことをそのまま口にしているだけだ。他意はない」
「なお悪ぃわッ!」
叫ぶハレルヤだったが、無闇に掴み掛かって来るようなことは無かった。彼も自分の邪魔をしたらどうなるか、しっかりと理解しているらしい。
それを認め、ティエリアは再び目の前の長方形の物体に注意を戻した。
弄っている間に分かったのだが、これは爆破スイッチがある型の爆弾だ。ある程度離れていても、そのボタンを押せばそれだけで爆発する。爆破の予兆が無いだけに、この場にいる自分たちの危険が増える。避けようがないのだから。
しかし、だからといって処理を行わないワケにもいかない。これはテロ行為。CBとして、発見してしまった以上は片付けなければならない仕事だ。
「よくも、こんな面倒な物を設置してくれたな……」
……だからといって、恨み節が無いわけでもない。
こんな計画に無い労働に駆り出される苛立ちだけでなく、処理が遅々として進まないこともある。爆発して死去という事も有るかもしれないが……そこは己の力不足と諦める。他の三人には、悪いが巻き込まれてもらうしかないだろう。
とにかく今、ティエリアの中にあるのは、早急に仕事を終わらせたいという思いだった。昨日のケンカ……もとい、ミッションのせいで、かなり疲れているのだ。なのにデパートまで付いてきたのは他でもない、アレルヤにスカートが着せられるのを防ぐためだ。精神年齢二十歳の彼にその扱いは…と考えたワケだ。見てみたいという気持ちはあるが。ちなみに刹那はどうでも良い。十六歳だから、まだ許容範囲だ。
「ティエリア……ゴメンね?手伝えなくて…」
「気にするな、アレルヤ・ハプティズム。出来ない物は仕方がない」
こんな技能は無かったとしても、ガンダムマイスターとしてどうこう、という話にはならないからな。
そう言うと、アレルヤはクスリと笑った。
「あー、てか腹減ったな……」
「刹那、今何時?」
「……十二時四十七分だ」
「空腹を覚えるわけだな。アレルヤ、何か買ってきてくれるか?」
「嫌だ」
「即答かよオイ……」
「だって、そうしたら危ないところにみんなを残すことになるから。一緒にいたいよ」
「…そういうことなら」
まぁ…本当に危なくなったら、何としてでも放り出すがな
本気で、どうして日常→非日常になってるんだろうとか思いつつ。
普通じゃなくても有り得なさそうな…。