チビスターズ第三話 ⑦
「でも……ちょっと、不思議だよね」
ふいに、アレルヤが呟いた。
何だ?と視線で問うと、彼は続きを口にする。
「だって、彼は脱獄したんでしょう?そこは一人でなんとかできたと……考えにくくても、そうすることにして。でも、いつ、銃なんて用意したんだろうね?逃げ出した後には、そんなものを入手する前に、追っ手がやってくるだろうから…」
「つまり協力者がいて、その人が銃を?」
「そういう可能性があるかも、というだけだよ。だいたい、立てこもる理由も強引だったしね……警察たちが、惑わされているという事もあるかも」
話している二人を見ながら、刹那も考え込む。
確かに、そういう場合だってあるだろう。警察がバカだとは思わないが、彼らよりも上手の悪人が存在しないとはいえない。
もしも、立てこもりの理由が、警察から逃げられずにやむを得ず、というのでなかったら。そういうフリをしていたとしたら。そうだとしたら、前提が崩れ去ってしまう。こういう状況が、犯人にとっては仕方がない物だという前提が。
仮に共犯がいるのなら、その人に匿ってもらえばいい。他者からの手助けがあれば、ある程度は身の安全を保証できるに違いないし、共犯者だって助けた人間を放り出して行くことはないだろう。というか、あったら変だ。何のために助けたんだという。
では、何故……?
そう思い、刹那は一つの可能性に思い至った。
「この立てこもり自体が陽動、というのはどうだ?」
「つまり?」
「こちらに警察の目を引きつけておいて、本当の目的を達成しやすくする。あくまで『しやすくする』というだけだが、ある程度は人員をこちらに割かせることが可能だ」
立てこもり、というのは、人質の命もかかっている。ないがしろにして良い話ではないのだ。警察だって、総動員……とまではいかなくても、結構な数の人員を割くだろうと思う。こんな所で手を抜いて、人質が死んでしまいました、では世間からの批判が痛い物になっていくだろう。
だからこそ、陽動に使えるのでは……と思った。
リスクは大きいが、成功すれば膠着状態へと持ち込むことができる。
時間を、稼げる。
「なるほどね……だとしたら、狙いは何だろう?」
「そこまでは分からない」
「…それはそうだよね」
クスリとアレルヤが笑った。
「テロじゃなければいいけれど……」
「そうだな」
テロなんてものが起こってしまえば……宇宙にいるロックオンが飛んで来るだろうから。彼は、テロを何より憎んでいる。
そんなことになったら決着がついた後、邪魔者が増える。ミッションでは役立つかも知れないが、日常生活的な物で、今回彼は来てくれない方が良い。その方が、アレルヤ独占率は増える……と思うので。
まぁ、ここらへんはティエリアとハレルヤを出し抜かないといけないのだけど。
そこは、頑張ることとしよう。
「ま、杞憂かもしれないし」
「だが……共犯者の線は、捨てない方が良い」
「……そういえば、今、何時かな?」
「えっと……もう一時を回ってる…」
「どうかしたのか、アレルヤ?」
「そろそろお腹すいたなって思って」
「あぁ、言われてみればそうだな」
「…………緊張感なさ過ぎだよ、本当に、二人とも」
…緊張感がないのは、一応自覚している。
(だが…どうにも危機感が湧かない。大人しくしておけば危険はないしな)
どんな状況でもお腹はすきます。食事は大切ですから。
何度も書いている気がしますが……本当に、立てこもり犯にとっては幸せなことですね…ミッションが終わってないこと。終わってたら血の雨が(比喩でなく)降る気がしますから…。