番外編・2
成り行きで同行者となった刹那と共に、三人で店が多く出ている通りを歩く。
王宮周辺を行動テリトリーとしている彼いわく、今日はいつも以上の品の新鮮さなのだそうだ。朝食に食べたリンゴが普段よりもみずみずしかったから間違いない、と。
……そのこと事態は喜ばしいことなのだが。
「刹那、もしかして朝食はリンゴだけと言い出す気かしら…?」
「良く分かったな」
「…ちなみに訊くけれど、個数は?」
「一個だ」
当たり前のように答える刹那から視線を外して、シーリンは一番近くにあった果物屋へ直行、リンゴを五つ買って内一つを彼へと渡す。
目を白黒させている彼の隣のマリナにも一つ渡して、自分も一つ。残りの二つは紙袋の中にゆっくりと丁寧に収めた。
「シーリン・バフティヤール、これは?」
「リンゴ一つだけでは倒れてしまうわよ。五十歩百歩かもしれないけれど…それも食べておきなさい。いいわね?」
「……金は良いのか?」
「私が彼女に給料を上げていないと思うの、刹那?十分すぎるほどあげているわ。だから問題ないはずよ」
皇女の言うとおり、自分は子供の侍女ながらも破格の給料を与えられている。けれどもそれが贔屓ではない事くらい、王宮内での二人の様子を一度でも見れば分かってしまうだろう。……むしろ安すぎると、賢人ことマスード・ラフマディーが語ったことがあるほどに、シーリンの役目は大変な物だった。
シーリンも人のことは言えないが……マリナはまだまだ幼い。したがって、王宮暮らしはしばしば息が詰まる物のように感じるらしく、ふと気付いたときにはいなかったりと……そんなことがあり、その際に探しに出るのが皇女の事をよく知っている自分なのだ。そして、これは大人には出来ない事。
そういうわけで、王宮内での自分の必要さは高い。
「そうよ、刹那。たまには年上らしいことをさせて頂戴。貴方と出会うことも滅多にないのだしね……こういう時くらい、私たちに花を持たせなさい?」
「……了解した。だが…マリナは何かしたか?」
「シーリンのお金は元、私のお金よ。だから私も間接的に関わっているの」
「……………それ理論はどうだ……?」
無茶があると言外にハッキリ示している刹那の表情に、シーリンは心中で激しく同意した。自分たちが、とは言ったが何もそういう理由ではない。
だから、とマリナの方へと向き直る。
「姫様、どこか適当なお店で菓子を買ってきてくださいな」
「何で私が?刹那に行ってもらえば…」
「ラサーにお土産です。手ぶらは問題でしょう…ついでに刹那にも何か買ってきなさい」
「成る程、そういうことね。分かったわ。じゃ、貴方たちはここにいて?」
先の自分の言葉を理解したらしく、クスリと笑ってマリナはタッと駆けていく。
残されたシーリンと刹那は、とりあえず建物が影を作っている場所に座り、買ったリンゴに齧り付いた。
「……思ったんだが」
「何かしら?」
そんな中、刹那が口を開いたのは彼のリンゴが半分ほど消えている時で、シーリンも彼に倣って口元から赤い果実を離す。
「マリナ・イスマイールは…あの賢人にはともかく…俺に、何を買ってくるんだろうな…」
「……あぁ、その問題があったわね」
けしかけた……というか提案した張本人なのに、と思われるかも知れないが、そういえば問題としてそこがあったのだった。…賢人のことは心から敬愛しているらしいので怪しげな物は買ってこないだろう。が、冗談の通じるとされている刹那には。
「…まぁ、そこまで鬼じゃないでしょう」
「だといいが……」