「…暇」
「言うな。それに、暇な方が良いだろう」
「いやまぁさ、そりゃそうなんだけど」
それでも暇というのはどうにか潰したいと思う物ではないだろうか。
とあるコロニーのとある喫茶店で。
ナタクと一緒に時間を潰そうと努めているデスサイズは、ハァと息を吐いた。
サンドロックとヘビーアームズは地上に行ってしまった。そんな二人からの情報で、ウイングは精神体として外に出られない状況だとも聞いた。
結果、機体の整備などで時間が有り余るような自分たちは、こうやって人間のふりをして過ごしていたりするのだけれども。
何というか…刺激がないというか。
出来ることなら平和的な刺激があって欲しいと思う。その方が平和で良いし、平和じゃない刺激は正直、いらないし、見たくもない。改めて憎悪や忌避と言った人の暗い部分を目にするのは、嫌だ。
我が儘かも知れないなぁと苦笑をしながら、デスサイズはグラスについていたストローで中身をぐるんぐるんとかき混ぜた。
「で、本当にどうする?どっか行ってみたいところでもあるか?」
「特にはないが、そういうお前はどうなんだ?」
「遊園地行ってみたい遊園地」
…実は行ってみたことがなかった。
これは自分たちなら全員当てはまるようなことだから、ナタク相手なら臆面無く言うことが出来るけれど。何せ自分たちは『ガンダム』であり、保護者的、親的存在はあの老人たちなのである。そんな所に行く余裕なんてあるわけもなかった。
行く余裕があっても、資金を出してくれるわけもないし。
しかもそれが切羽詰まっているからではなくて、自分の所の場合、純粋に嫌がらせだったというから質が悪い。行ってみたいと言っても金を出さないと返され、文句を言う自分の姿にプロフェッサーGはニヤニヤと笑みを浮かべていた物だった。
「…何てーか…あんなヤツらに育てられてよく性格曲がんなかったな…俺」
「何がどうしてそんな結論を口にしたかは知らんが…言いたいことは分かるぞ」
「だよなー。これ、俺たち全員に当てはまるプロフェッサーたちへの認識だし」
流れが分かるまいと、結論くらいなら容易に分かってしまうくらいに。
その認識は深く深く根付いている。よって、その認識を根拠に、物によってはどのような結論かを解してしまうと言うワケなのだった。
なかなかに使えない技能である。
だって限定されすぎるし。
「そーいやさ」
ストローでグラスの中をかき混ぜるのを止めて、大人っぽくコーヒーを飲んでる、でも少し苦そうに顔をしかめているナタクの方を見る。
「お前のトコは作業どんな感じ?」
「多分だが…お前と今のところは変わらないと思うぞ」
「ま、そりゃそうか」
別れてからそれほど時間も経っていない。
納得するように頷いて、ジュースを一口。
「で、お前はどうしてコーヒーなんて頼んだよ」
「合う物が無かった。俺がジュースというのも妙ではないか?」
「…まぁ、否定はしないけどな」
「だからといってコーヒーもさほど好きではないんだが…」
「じゃあ何で頼んだよ。アイスティーとかあんじゃん?」
「偶然目にとまったからだな」
「…そりゃダメだろ」
じっくり考えろとは言わないが、もう少しくらい考えてみるべきではないのか、それは。
「ていうかコーヒー嫌い?」
「苦いだろう」
「…あ、そう」
あっさりハッキリとそう言ってのける仲間に物申したいような気分になったけれども何も言わないでおいて、さらにジュースをもう一口。
…やっぱり炭酸にしておくべきだっただろうか。刺激が欲しいとか思っていたのだし、平和的な刺激と言ったら、まさにそれは当てはまるのではないだろうか。
少し失敗したかと思いつつ、ジュースの入ったグラスを机において、軽く伸び。
「地上どうだろーなー。楽しいかなー」
「いや、楽しくはないだろうが」
「そうは言ってもさ、もしかしたら凄い誰かとの出会いとか、あるかもしれないし」
「…あぁ、それは楽しそうだな」
「だろ?ちゃんとした人格者とか、俺たちから見るとすっごい遠い世界の話だし」
周りの全てが破綻しているような世界にいるのだ、それも仕方ないだろう。
そして。
痛みを忘れてもいないのに、破綻した世界にいると自覚しているというのに。
こうやって笑い会える自分たちもよほど破綻しているのかもしれない。
最後がちょっとシリアスっぽくなった…。
でも、やっぱ遊園地とか行ったこと無いだろうな…。パイロット皆様も、カトルとかは行ったことあるかもだけど他のメンバーはどうだろう…や、行くか行かないかとか性格上の問題があることは事実だけどさ…。