キュリオスがアイスやらポテトチップスやら、菓子の類を好むのは良く知られている。それを好きだと彼が言った事はそれほどあるとは思えないのだが、彼の態度からその事実は目に見えて分かり切るものであり……ハッキリ言ってしまえば、訊く必要なんてどこにもないのだ。見れば、それで全部分かってしまうのだから。
そして、そんな彼の菓子に関するもう一つの特徴。
果たしてこれは知られているのだろうか、それとも案外気づかれていないのだろうか。
その特徴が良く現れた未開封のアイスの袋を、セラヴィーは静かに見下ろした。
期間限定品だから買って来たとキュリオス自身が言っていた、二つ入りのそれ。
キュリオス自身気付いていないようだが、彼は二人以上で食べる事が可能な菓子類を買って来る事がし多い。そう言った時、たとえ三人くらいで食べるのがちょうどいい代物であろうと、四人いなければ食べきれそうにない量であろうと、彼は絶対に彼の半身と共に二人だけで食べようとするのだ。
もちろん必要以上に気弱なあのアリオスが、そんな条件下で大人しくキュリオスの買って来たものを食べられるわけもない。二人だけで食べるのは何だか他の人に悪いと言う彼の言葉を抑える事も出来ず、最終的に二人以上で食べる事になるわけだ。しかし、その時のキュリオスの顔と言ったら本当に不機嫌そうな物なのである。
そんな事が多くあったせいか、気付けばしっかり二人用あるいは一人用の菓子を買ってきているキュリオスである。
無意識下の行動で選択だろうが、そんな振舞いをするようになるくらいなら、とっとと自分のその特徴に気付けと文句を言いたくなる。勝手に買ってきて勝手に食べようとするのは勝手なのだが、自分でも気付いていないだろう、その時の思惑に沿わなかった時のあの苛々にこちらが迷惑するのだけは面倒だ。
幸い今日はそんな事もなさそうだと、アイスから視線を外したセラヴィーはそのまま自室に戻るべくリビングから出る。
「あれ、セラヴィー?」
そこでばったりと出くわしたのはアリオスだった。
彼は不思議そうにこちらを見て、はてと首を傾げた。
「部屋に戻るの?見たい番組があるとか言ってなかったっけ」
「それは明日の話だな」
「あれぇ……そうだっけ……?」
「そうだった」
断定すると、そっか、とアリオスは頷いた。……自分相手だから良いものの、こうも簡単に信じられると懸念しか生まれないのだが。相も変わらず騙されやすそうだと、ほんの少し彼の警戒心に対する不安を抱く。いや、実際に番組は明日の話なのだが、ここで言うのはそう言った事では無くて。
そんな心情など知らず、アリオスは、あ、と手を打った。
「そうだ。セラヴィーさ、キュリオス見なかった?」
「見ていないが、どうかしたか?」
どうせ風呂だろうと思いながら応じると、アリオスは胸に抱きしめるように持っていた袋に視線を落とした。
「女の子からお菓子貰っちゃって。お土産配ってたら休みの子とかいて余っちゃったらしいんだよね。生ものだし、賞味期限の関係もあるから残ったの全部貰ってって言われて。それで、みんなで食べるには数が少ないから、二人で一緒で内緒で食べようと思たんだ」
「あぁ……」
そういえば昼休み、やたら女子がわいわい騒いでいた気がする。
その原因がこれなのかと思いながら、セラヴィーは言った。
「それよりも、だ」
「え、何?」
「オレに言ったら秘密ではなくなるだろうが」
「あ」
指摘されるまでその事実思い至らなかったらしい。
しまった、と片手を口元にあてる彼のもう片方の手から袋を奪うように取って、始めから開いていたそれの中身を見る。
傍から聞こえてくる制止の声を軽く無視して、中にあった菓子を一つ抜き取った。
「セラヴィー!」
「口止め料だ。それにこれで丁度良いだろう」
咎めるような声音を物ともせず、アリオスの手に袋を戻してやって、セラヴィーはそのままするりと彼の脇をすり抜けるように足を動かした。
条件反射だろう、近づいて来た自分を避けるように通路の脇によけたアリオスに、軽く一瞥をやってから、辿りついた自室の扉を開ける。
「二個と二個だ。一つずつ交換でもして半身同士、仲良くしておけ」
「え?」
「リビングのテーブルの上を見れば分かる」
きょとんとした表情を浮かべるアリオスにそうとだけ言って、セラヴィーは、入りこんだ自室のドアを閉じた。
双子は半分こがお好き、みたいなお話でした。仲良しなのは良い事なのです。