02.一等賞
「俺さ、兄さんに勝てた事って、一度もない気がするんだよな」
「え……?」
「毎回毎回、兄さんには負けてた気がする」
苦笑を浮かべながら、そう、かつてのロックオン・ストラトスと同じ面影と血筋を持つ二番目のロックオン・ストラトス……つまりライル・ディランディは言った。苦笑はどこか、自嘲じみていた。
アレルヤはそこで、どういうことかと問い返すことはしなかった。
ただ、視線で続きを促した。
「……何て言うかな…いや、それが悔しかったわけじゃないんだぜ?最初に言っておくけど。それよりも、俺の兄さんって凄いだろ?っていう自慢の方が大きかったからな。ただな……ふと、今思った。それだけだ」
「ふと、ですか」
「そうそう。理由なんて無い」
だから気にするな、と続けられた言葉に、じゃあ、と返す。
ならば、どうして。
「何で、僕に話したんですか?」
「……さてねぇ。俺にも皆目見当なんて付かない」
「本当に?」
「本当本当。信じてくれなくても良いけどな、本当だぜ」
「……嘘ばっかり」
微かに責める響きを言葉に含ませれば、ライルは楽しげに笑った。アレルヤの反応を見て楽しんでいるのは明白だった。
別に良いけれど、とアレルヤは溜息を吐く。刹那相手ではこういう事は出来ないだろうし、ティエリアなんて論外だろう。彼がミスをしたライルを追いかけ回す姿を、一体何回目にしただろうか。
だから、マイスターの中では自分が一番話し易いのだろう。
話しやすくて、反応がそこそこ面白くて……そして。
「ライル、一つ質問です」
「んー?」
「僕らの情報、どのくらいまで閲覧しました?」
たとえヴェーダを奪われていようと、その中のデータが損なわれていようと、プトレマイオスⅡのメインコンピューターの中にはある程度の情報がある。そして、それはマイスターであるのならライルにだって閲覧は可能なのだ。
真剣な目で彼を見る自分に、何を思っているのかが分かったらしいライルは肩を竦めて見せた。表情は笑みだが、どこか呆れも含まれているように思える。
「全部だよ、全部。見れる所は全部見た」
「……頑張ったんですね」
「まぁな。俺は遅れての参加だし、それに…」
「それに?」
「……いや、これは言わないでおく。で…それがどうかしたのか?」
「いいえ。それさえ聞くことが出来れば、貴方がどうして僕に話したのかが分かるかと思って」
そして実際に分かったワケなのだけど。
微笑みを浮かべ、アレルヤは自分たちの共通点を一つ、思い浮かべる。
本質は違うかも知れない。けれど、互いが互いとも、片割れと呼ぶことの出来る存在を持っていたことだ。
ふふっと笑ったまま、アレルヤは口を開いた。
「僕らの場合、何かを競い合うって事が無かったです。片方が出来ないことはもう片方がやって、その逆もあって。二人とも出来なかったら二人でやって、二人とも出来たら……基本的に僕でしたね。彼、結構ものぐさで」
「へぇ…」
「だから、どちらが上とか、一番とか、そんな話は一つも」
というか、考えつきさえしなかった。
ここが彼らと自分たちの違いだろうか。彼らは別個の存在で、自分たちは同じ体に入っている存在。一と一を合わせて二にする彼らに対して、自分たちは一と一を合わせても、永遠に一のまま。
他にして同という存在だった互いなので、どちらが出来る出来ないはあまり問題にはならなかった。……呆れられたり貶されたことはあったけど。
「…そんな僕が言うのは何ですけど、順位なんて気にしなくても良いと思います」
「ふぅん……ま、そりゃそうか」
「えぇ。貴方はこのままで良いんですよ、多分」
出来ればもう少し、心を開いて欲しいけれど。
「これからもよろしくお願いします、ライル」
でも、関係性としてはディランディ兄弟って、リジェネとティエリアの関係に近いかなぁ…なんて。ハレアレは特殊ですからね。
ただ、ティエリアはリジェネのことを皆に言えてないので。