14.君がいれば
「アレルヤは、いつもハレルヤばかりだよな」
「へ?」
突然の言葉にアレルヤは目を丸くした。
「どうかしたんですか?ロックオン」
「いやなぁ…何て言うか、アレルヤと話してるとよくよく『ハレルヤ』って単語を聞くもんだから何となく」
「そうですか…」
そうなのだろうかと、恐らく今は思っているのだろう。首を傾げているその仲間に、ロックオンは何とも言えない思いを抱いていた。
端から見ても分かるくらい、アレルヤはハレルヤに頼り切っている。というか、もっと正確に言うと、アレルヤはハレルヤがいることを大前提として自分を作っているような気がする、のだ。
恐らく、アレルヤはハレルヤさえいればどうにか生きていけるだろう。
二人のそれは絆というのには生やさしすぎる気がした。
そんな自分の考えなど当然のように知ることなく、アレルヤは相変わらずの表情で苦笑を浮かべた。何を言っているのかと、尋ねてこんばかりの表情だ。
「けれど、ハレルヤは一番長く一緒にいた相手ですから、やっぱり話に出しやすいんだと思うんです」
「それだけかねぇ…」
「それ以外に何かあるんでしょうか…?」
「…いいや。気付いてないならそれで良いんじゃないか?」
「……?」
「こっちの話だよ、こっちの」
ひらりと手を振って、ロックオンは静かに考える。
良いわけがない。彼はいわば一つの完成した世界に一人だけ存在しているような物だ。正確にはハレルヤと二人きりだろうが、それでも対して変わりはしない。
ただ、閉じられているという事実。
それだけが、そこにあるのみである。
しかし、そうは分かっていたとしても、どうやってその扉を開けば良いのかが分からないのだ。同時に、果たして本当に開いてしまっても良いのか。彼はあくまで自分から見たらただの『他人』である。その彼の事情に、あまり深く踏み込むのは得策ではないことくらい、自分にだって分かるのだから。
ハレルヤが、言ってくれればいいのだろう。それでも彼は言うことをしないだろうと、そんな根拠がロックオンにはあった。彼はアレルヤのためになることを行うが、同時に、アレルヤにプラスにもマイナスにもならないことは絶対にしない。面倒だから、というのが理由らしいが。
したがって、これは外部からの刺激が必要、だった。
……無茶な気が、するのだが。
はぁ、と息を吐いて、ロックオンはしかしねぇ、と言葉を紡いだ。
「もう少しくらい離れてみたらどうだ?」
「離れる、ですか?けど…」
「同じ体に一緒にいることくらい俺だって理解してるさ。けどな、だからこそ、ちょっとした距離感も大切になると思うんだよ」
「……難しいですね」
「そうか?そうでもないと思うぜ」
眉を寄せたアレルヤに、軽く笑いかける。
「例えば、今の俺とお前だ」
「僕ら、ですか」
「あぁ。俺たちはこうして、違う体を持って存在しながらも、共に言葉を交わしてる。そこにも距離はある」
普通に立っていれば空間が。
握手をしたとしても皮膚が。
不確かで確かな距離を作る。
「ってなわけで、距離を持った対話は当然だと言えるワケだ」
「…何となく、分からないけど分かります」
「どっちだ?…とにかくな、ずっと一緒にいられるお前たちの方が珍しい、っていうのは分かってるだろ?」
「それは…常識として」
「そこで、距離だ。たまにはそういうのも必要なんじゃないか?体では無理でも、心の中の一歩のいたところで見てみると良い」
そうしたら、別の味方が見えてくるかもしれない。
…閉じた世界を開くことが出来る、かもしれない。
「ちょっと試してみても良いんじゃないか?」
「…それは、何だか新鮮な気がしますね」
アレルヤはこくりと頷いた。
この意見が何かを変えるのか、変えないのか。
まぁ、それは分からないけれど。
きっと変わらないだろうけど。
だって、結局二人は離れられないし、離れたら離れたでより深く囚われそうな予感。