「最近クロームが反抗期な気がするんです」
「へー、そうなんですかー」
「えぇ、そうなんですよ。昔は骸様、骸様って、後ろをてくてく、それはもう可愛らしくついて来ていたのに……最近では顔を出したらお辞儀一つで自分の作業に戻ってしまうんですよ!僕の方を見向きもせずに!」
「それってむしろ親離れ期ですよねー」
「いいえ反抗期です。親離れなんてとんでもない!」
「……まぁ良いですけどー、でも、師匠たちが会ったのって、師匠が牢獄に繋がれた後でしたよねー。それでどうやって後ろを付いて来てもらうんですかー?」
「夢の中なら何でもできるんですよ?」
「わー。ここに頭が可哀想な人がいますー」
「フラン、冗談はやめてください」
わりと本気だった言葉に眉を寄せて、骸は腕を組んだ。
「とにかく、何らかの対策を取らなければなりません」
「そーですかー」
とても深刻そうに表情を歪める師匠の横で、弟子はのんびりとジュースを飲んでいた。
正直、骸の話を真剣に取り合う気がフランには、無い。そんな事をしても面倒なだけだし、良いことなんて一つもないというのが理由である。師匠なんだから面倒さなんて我慢して手伝ってやれと、事情を知っているだけの誰かは言うかもしれないが、師匠の性格を知る誰かならばきっとこう言う。それで別に良いんじゃない?と。
そういうわけなので、フランは心のままに行動する事にしていた。とりあえず、この幻術の師匠の前では。それ以外は……まぁ、TPOで。
ミーはきっと世界一不幸な弟子なんでしょうねー、なんて自分の境遇を嘆きつつ、コップから口を離す。中は既に空になっていた。
次は何を飲もうかと、ずら、と目の前に広げられている大型のペットボトルの群れを眺めながら考え込んでいる間にも、やはり隣からの声は絶えない。既に意味を拾う努力も放棄したそれらだったが、フランは何となくそれの意味を簡単に拾ってみる事にした。関わり合うのはごめんだが、少しくらいなら話を聞いても大丈夫だろう。
……そして、ちょっとだけ後悔した。
後悔したついでに息を吐き、口を挟む
「師匠」
「何ですか?」
「どうしてそんな話になってるんですか」
「だって有り得そうじゃないですか」
「だとしてもですねー、そこまで踏み入るのは問題じゃないんですか」
「問題にはなりませんよ」
真面目すぎる程真面目な表情を浮かべ、骸は言った。
「クロームは僕の娘の様なものです。ですから心配なんですよ、僕の可愛い可愛いクロームにか……かか、かかか彼氏なんてものがいるのかどうかが!……もしいたら、その彼氏はそうですね、何故か明日の朝モノ言わぬ存在になっているかもしれません」
「過保護は子供をダメにしますよー」
「過保護じゃないです。保護です」
そう言う師匠にどうだかと肩を竦めて返し、コップを机の上に置いた。
骸の話には関わりたくない。骸のせいで誰かが酷い目に会うのだって興味は無い。けれども、ただ、その被害対象がクロームだと言うなら話は別になってくる。
というのも、彼女はあまりにも骸の諸々の行動による被害を受けているのだ。それも他の誰とも比べられない位に。……これは同情ではないだろうが、それに近い感情ではあるかもしれない。
らしくないと思いながらフランは口を開いた。
「その辺りは、心配しなくていいと思うんですよー」
「そうですか……?彼氏ができて僕に対する色々な感情が薄れてるって言う可能性、結構あると思うんですけれど」
「彼氏が出来たら、きっと師匠は永遠に構ってもらえなくなると思うんでー」
「え……永遠に、ですか!?」
「だって師匠鬱陶しいんですよねー」
「う……………鬱陶、しい?」
何故か衝撃を受けたような表情を浮かべて揺らぐ骸を前に、フランはこくりと頷いてからとんとんと言葉を続けた。
「意図しない時に突然現れるしー、幽霊みたいに人の身体を乗っ取るしー。夢の中でまで顔を見たら、確かに鬱陶しいと思うんですよねー」
「……では何ですか?僕の楽しみを無くせと?」
「別の楽しみを探せばいいんじゃないでしょうかー」
「……仕方無いですね。なら代わりに雲雀恭弥にひっつきまわってみましょうか」
「……別にそれでも良いんですけどー」
呆れながら、フランは零した。
「骨は、拾いませんからねー」
骸死亡フラグ発生。雲雀のところに行ったら瞬殺されかねません。
それと、クロームは別に、骸が嫌いになったとかいうわけじゃありません。