「はぁ……平和過ぎて暇だね。何か素敵な事件でも起きないかな」
「平和で結構。暇で良いじゃねぇか。無理に厄介事起こす必要もねぇだろ」
閉まったままの窓を突き通し、入ってくる穏やかな日差しを浴びながら。
何やら物騒な事を口にする半兵衛に言葉を返しつつ、政宗は頬杖をついて時計にちらりと視線をやった。
五時間目が始まるまで、あと三十分。
半兵衛が素敵な事件を起こして巻き込まれに行くには十分すぎる時間だった。
こういう時に限ってどうして幸村や慶次、小太朗がいないのだろうかと、購買の方へ行ってしまった三人に思いを馳せる。こうなると分かっていたら、せめて慶次だけでも引きとめていたのだけれども。
あるいは自分も彼らについて行っていれば良かったと悔やみながら、恐らく現在進行形で厄介事を起こす為の策略を練っているのであろうクラスメイトに視線を戻す。こうなったら、自分がどうにかして彼を止めなければならないのだろう。本当に止められるかというのはさておいて。
「半兵衛……昼休みはあと三十分しかねぇんだから、今から何かやってたら五時間目に間に合わなくなるぜ?」
「何言ってるんだい?昼休みが終わるまであと三十分もあるだろう?三十分もあれば事件の火種を作りだして、その中に学校中を巻き込むくらい容易く出来るよ。そうなってしまえばこちらの物だろう?」
「……」
気付いていない事は無いだろうと思いながらの言葉に対する返答に、思わず黙る。確かに、自分と同じ事に気付いて同じような事を考えていたらしくはあるのだが……彼の方は自分の想像と比べて少々、スケールが大きかった。自分は、事件と言ってもせいぜいクラスの中だけで収まってしまうような規模の物だと思っていたのだけれども。
どうやら半兵衛は、学校全体を巻き込むつもりらしかった。
そうなってしまえば生徒一人を相手にしている余裕はなくなるだろうし、怒られる事は無くなるだろうが、それにしたってとんでもない話である。
若干頬を引きつらせながら、呻く。
「お前、それは流石にねぇだろ……」
「そうかな……そうかもね。これは退屈に対する最終手段だし、そう軽々しく使うべき手段では無いかもしれないな。……よし、じゃあもう少し可愛らしい事をしようか」
「……お前の『可愛らしい事』ってのも何か怖いけどな」
「ははは、そう褒めないでくれよ」
「褒めてねぇよ」
今の言葉に彼を称賛する感情は1パーセントたりとも含まれていない。
渋い顔をしながらの返答に、分かっているよと彼は笑って、さて、と教室を見渡した。
「今の所、特に面白い物は無いね……」
「お前が面白がるもんが普通に教室にあったら軽く悲劇じゃねぇか」
「そう言わないでくれよ。君だって派手な事は好きだろう?」
「その言葉を否定する気はねぇし資格もねぇだろうけど、平穏をブチ壊すような派手さは要らねぇ。お呼びじゃねぇんだよ」
「ふぅん……それは残念だね。一緒に楽しめるかと思ったのに」
本当に残念そうな顔をして、半兵衛は、はたと気がついたような表情を浮かべた。
「……ねぇ、」
「……何だ?」
「つまり、平穏を壊す様な事件を起こさなければいいんだよね?」
だったら良いアイディアがあるよ。
そう言って、彼は笑った。
「ちょっと実験してみない?」
「What?実験?」
「そう、実験。もしかしたら観察と言っても良いかもしれないけれど。大丈夫、学校全体を巻き込むようなマネはしないから」
「そりゃ幸い……けどな、別に俺はその実験とやらに参加する気はねぇぞ」
「いや、参加してもらうよ。そうする事によるメリットは君にもあるしね」
「merit、ねぇ……」
それはもちろん、存在するだろう。半兵衛の言葉を繰り返しながら、思う。
何をどうするのかはまだ分からないが、実験に参加するということはつまり、ずっと半兵衛を監視する事が出来るということである。彼が何か……それこそ学校全体を混乱に突き落としそうな事をしようとした時、真っ先に留める事が出来るという事なのである。
確かに、その利点が得られるというだけでも、実験に参加する価値はあるかもしれない。
ふむ、と考え込みながら、尋ねる。
「で、お前、何する気だよ」
「そうだねぇ……詳しくは伏せておくけれど、まずは幸村君で実験するつもりだよ」
「……幸村で?」
「そう。幸村君で」
そう言って半兵衛は笑う。
それは、自分からすれば悪魔の笑みだった。
日輪学院設定の伊達さんは平和主義者なのですよー……多分。
そしてラストは、そりゃまぁ、ライバルを見捨てる事は出来ないでしょってことで。