17.朗読
「ガンダムの素晴らしさと言ったら言葉では言い表すことは出来まい。高い性能だけではなく、あの素晴らしい造形、存在……全てにおいて素晴らしいのだからな!彼らの素晴らしさを言い表せる事が出来る者がいるのならば是非ともお会いしてみたい。私ごときの語彙では語り尽くせないガンダムの素晴らしさを表現できるのだ、それだけで十分に尊敬に値する人物ではないか。
…そう、あれは運命の出会いだった。あの時も思ったし、今も思っているとも。彼らとの出会いは間違いなく私に変化をもたらしたのだよ。その変化はあっという間に広がり、変化の名前に気付くまでに時間は掛からなかった。
まさしく、あれこそが恋だったのだ!
今でも思い出すだけで胸が張り裂けそうになる……最近は久しく会えていないからかもしれない。ガンダム不足だな…後で探しに行くか。
まず、私が始めてであった青いガンダム。接近戦を得意とするあのガンダムとは幾度も戦った。四機の中でも最も付き合いが長いガンダムだと言えるだろうな。そうだ……あのガンダムにあった瞬間に、私の心は完全に彼らの物になったのだ…。
緑色の射撃系のガンダムも良い。力なく倒れている様はまさに眠り姫のようだった。あのまま連れ去ることが出来なったのは非常に残念だったよ。是非とも我らが基地へと丁重にエスコートしたかったのだがな。連れて行けば眠り姫を解体して調べようという輩も現れようが、そこは私がどうにかするつもりだったぞ?何せ相手は私の愛する者たちなのだからな。
そういえば、羽根付きとはあまり会ったことはないな。あの速さには感服し、憧れる物があるのだが……残念なことだ。空をかける物として、あの素早さは本当に羨ましい。可変型というのも良いな。フラッグとお揃いだぞ。
デカブツはビームの威力が高いな。艦隊をも一撃で溶解させる様には……戦慄が走る。そしてそういう相手にこそ、私は心奪われるのだ。
それに…」
「はい、そこまでだよ」
ピッとグラハムの手から作文用紙全二十枚を取り上げ、カタギリはにっこりと微笑んだ。
微笑みながら思うのは、グラハムの長い長いこの用紙に二十枚にわたってビッシリと書かれたガンダムに対する想いの朗読に、付き合わされてしまったハワードとダリルに対する同情の念だった。
普通の相手ならば、これは結構きついのだろう。
ちなみに自分はと言うと慣れた上に合いの手も入れることが出来、それからむしろ技術屋として話に同調していくのでそれほど辛いと思ったことはない。
そこはまぁ、順応性や性格の違いがあるので何とも言うことは出来ないだろう。
「二人ともお疲れ様。疲れたなら部屋に戻って休んでも良いよ?」
「ビリー・カタギリ技術顧問……お言葉に甘えさせていただきます」
「申し訳ありません…」
「気にしなくて良いよ、いつものことだからね」
「…では失礼します」
「気をつけてね。途中で疲労のあまり倒れたりしないように」
ひらひらと手を振って、出て行く二人を見送ったカタギリは、それからくるんと再びグラハムの方を向いた。彼は心なしか不満そうだった。それはそうだろう。折角楽しく話していたのを中断させられてしまっては。
だが、あれは必要な行為だったのである。
どうせ言ったところで分かってはもらえないだろう、と肩をすくめながら、今度は取り上げた作文用紙の方を見る。一枚四百字の二十枚、ビッシリと書かれていると言うことは……全部で焼く八千字か。良くやる物だ、本当に。
「グラハム、こういうことを書いてる暇があったら訓練とかした方が良いんじゃないのかと、僕は思うけどね?」
「何を言う。ガンダム以上に大切な物などどこにも無いぞ?」
「それは君だけの価値観だろ……?」
探せばグラハム同様に『ガンダムが一番』と言い出しそうな人種はいないでもないだろうが……見つける事が出来る確率としては殆ど零に近いだろう。
「でも、」
恐らく平行線になるだろう話は放っておくことにして、ペラペラと手元にある二十枚の紙を捲ってみる。
「これだけの文章を一体、いつ書いたんだい?」
「ついさっきだな。出来上がったからハワードとダリルに聞かせていた」
「ついさっきって……訓練と訓練の間の十分間?」
「恐らく七分とかかってはいないだろうが」
「…君のガンダムへの愛には敬服するしかないね」
それだけ短い時間でここまで書いたのか。文章を練る時間の短いこともさることながら、文字一つ一つを書く速さの方も賞賛すべき点だろう。
さすがはグラハム、というべきなのだろうか。
「でも、ガンダムから視線を逸らしてもう少し周りを見てくれないかな…」
「今でも十分周りは見ているぞ?」
「…あともう少しお願い」
もっとガンダムへの愛の文章を書ければ良かったのに…私もまだまだですね。