14.一歩一歩
私には何が出来るだろう?
ずっと、そう、マリナは考えていた。
このままではいけない。それは分かっているのだけど……どうしたら良いのかが、分からない。何をすべきなのかが分からないのだ。
シーリンのように戦うことは出来ないだろう。戦いは悲しいから。辛いから。自分にとっても、相手にとっても、きっと。……こんな考え、逃げているだけなのかも知れないけれど、少なくともこう考えてしまう自分に戦いは無理だろうと思う。主観的にだけでなく、客観的に見ても。無理に出ていっても邪魔になるだけだ。
ならば、と子供たちと共にいることにした。そのくらいしか出来ないから。
「呆れられているかしらね……」
「……マリナ様?」
「ふふふっ……何でもないわ」
微かに自嘲じみた笑いになってしまったが、それでも笑みを浮かべてマリナは子供の頭を撫でる。心配をかけたくはない。
子供たちの言葉を集めて、歌を作った。
それは『子供』という純粋さを持った存在が紡ぎ出した言葉を集めたためだろうか……とても優しく、穏やかで、暖かい、平和を願ったものになったように思う。余計な感情が無い、本当に純粋な祈りの歌に。
ただ、戦っている人たちから見れば、こういう行為も悠長な物だと思われたりするのだろう。なんて平和ボケした……とも思われそうだ。
そういうことを差し置いても、呆れたように嘆息するシーリンの顔が浮かんできて苦笑する。あぁ、絶対に彼女は呆れる。呆れながらも黙認してくれる。
「ねぇ、貴方はこの歌が好き?」
「好き!だってね、みんなで作ったんだもん。マリナ様も一緒に作ったもん、ね?」
「えぇ…そうね」
「でもマリナ様って凄いね。歌を作れるんだもん」
「……そうかしら」
心からの賞賛を込めてくれたのだろうその言葉に、沈んだ笑みしか返せないのが辛い。
歌は作れても人は救えない。今も一人、また一人と人が死んでいく。戦いが終わらない限りずっと、ずっと。その一人がシーリンになる日が、クラウスになる日が、子供たちになる日が、自分になる日が、そして……刹那になる日が、いつか来るかも知れない。
こんな無力な、歌を作り出す技能なんて。
そういった思いが、言っても意味はないだろうとは知りながら……マリナの口を突いて、いつの間にか言葉になって現れていた。
「歌で人は救えないわ……歌えても、戦いは止まらないもの…」
「マリナ様……?」
「戦いが止まらないの……」
呟いて、俯きながら膝の上で手を握る……痛いほどに。
今だって、目を瞑れば浮かんでくる光景がある。
空から見下ろした赤い首都。その赤が建物の色や、夕陽の色だったら何と良かったことだろうか。
けれど、あの赤は炎の色だった。
「人がいなくなって、国も壊れていって……私は…何も出来ない……」
「マリナ様は…何も出来無くないよ?」
「え……?」
その言葉に顔を上げると、そこには、子供とは思えないほどの包容力を持っているような……そんな微笑みがあった。
その表情を見た瞬間に、今まで以上の悲しみがマリナを襲った。
無邪気な笑みを浮かべているべきなのに。
争いは、子供にそれさえも許さなかった。
「マリナ様のお陰で私たちは楽しいの。マリナ様のお陰だよ?」
「でも……」
「歌、作ってくれたでしょ?」
とっても嬉しかったんだよ?
そう続ける子供を、思わずマリナは抱きしめていた。
「……そうね…そうよね……」
「そうだよ……?だから、大丈夫なんだよ……?」
「えぇ、えぇ……ありがとう……ありがとう…っ」
涙が出そうだと思ったけれど、実際は出ないままに……子供を抱きしめながらマリナは考えた。子供たちのために、何が出来るだろう。
まずはそこから始めよう。
そこから初めて、争わずに戦う術を探していこう。
最後の締めの言葉が、途中、ガンダムWの某ドーリアン外務次官(二代目)の方になりかけたのは秘密。
というか、子供が凄く大人びすぎてるというか…でも、こういうこともあると思うよ……?