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頑張って、ヨハン兄のお話を書こうと思っております。
だって、彼の、あまり書いてない気がするし……。
気のせいですか?
05.リセット
それは、ふと浮かんだ疑問。
浮かんだ瞬間、それは言葉となって外に出ていた。
「もしも、この世界がゲームだったら、どうなっていたんだろうか……?」
「え?」
聞き返す声に答えず、そのまま思考へと没頭していく。
もしも、この世界がゲームであったら。そうしたら、どうなるか。
まず、外側にプレイヤーがいる。自分たちは駒で、その、見ることも叶わない誰かの手によって動かされる存在。
そこはいい。今だって上からの指示に従う、駒のようなものだから。たいして変わることはない。命令を出す者が変わろうと、何らやることに変化はない。
だが、もしもゲームだったら、決定的に変わる部分がある。
世界に、リセットが効くのだ。
嫌な世界へと変わってしまったら、すぐに電源を切ればいい。
大切な作戦を失敗してしまったら、すぐに電源を切ればいい。
必要な何らかを忘れてしまったら、すぐに電源を切ればいい。
今までの事柄が無いこととなれば、悲劇だったものを喜劇に変えることも可能だ。もちろん、その逆も然り。別の例だって簡単に成り立つ。
長い道のりになるかも知れないが、セーブをしてリセットをして……繰り返せば、そのエンディングが存在するならば、間違いなく目的の達成に届く。そこへ至ってこそのゲームクリアなのだから。
だとすれば……なんと楽なことだろう。手間が増えようと、気持ちの上では余裕が出来る。何せ、簡単に切って、やり直すことができるのだから。
自分たちとは全然違う。見えない未来を手探りで進み、本当に出来るのか分からない(いや、しなければならない。それこそが存在理由なのだから)目的を追い求めている、自分たちとは全く。
それは……羨ましいこと、なのかもしれない。
「……あの…」
「ん?あぁ、すみません」
アレルヤの声に、我に返る。
どうしたのかと首をかしげる彼に、今まで考えていたことを話した。
この世界がゲームだったら、という話を。
リセットの、話を。
「……僕だったら、それは嫌ですね」
しばらく考えていた彼だったが、ポツリとそう、呟くように口にした。
それに、少し驚く。自分と同じ立場で、どうなるかも分からない目的を果たそうとしている彼だから、賛同が返ってくるとばかり思っていたのだ。
「なぜだか、訊かせてもらっても?」
「はい。構いません」
真面目な表情で、彼は口を開いた。
「だって、リセットされてしまったら、過去が消えます」
「まぁ……消去、ですから」
彼にとっては、過去とは消えてしまった方が良いのではないのだろうか。そんなに、楽しい思い出があるわけでもなく、むしろ苦しいという思いしか無いだろうに。
「過去が消えてしまったら、今までのことも何もかも無くなります」
戦いの記憶も、人を殺したという事実も。
目を背けたいものから遠ざかることができる。
なのに……何故?
「そうしたら……出会いも無くなってしまいますから…」
「…出会い?」
「えぇ。僕は、機関でハレルヤに会いました。CBで仲間であるマイスターたちに会って、クルーたちに会って、エージェントたちにも会って……それに」
いつの間にか……彼の顔には、笑みが広がっていた。
「貴方たちにも会えました」
「……っ」
「過去には、辛いこともたくさんありますが……大切な出会いの記憶もあります」
それが無くなるなんて……もったいないですよね?
微笑みながら言う彼を、ヨハンは好ましく思い、悲しく思う。
こんなことを本気で考えることのできる彼が、どうして戦場にいるのだろう。どうして、そこが居場所になっているのだろう。
出会いのことを素晴らしいと話してくれたアレルヤには悪いが……やはり、リセットはあった方がいい。
彼のような存在の生まれる歪んだ世界は、始めからやり直すべきだと思うから……。