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最初に覚えたのは、ちょっとした違和感。
まるで何かが欠けているような……そんな感覚の正体を突き止めようと、食堂内を見渡し、すぐに気がついた。
倒れていたハレルヤが、いつの間にか消えている。
恐らく……起きた後も、気絶したフリを続けていたのだろう。自分が話した噂は聞かれてしまっているに違いない。だから、何らかの手を打つために「狩人」の所へ行ってしまったのだ。
「どうかしたのか?刹那・F・セイエイ」
「ハレルヤがいなくなった」
言いながら、ふと、不思議に思った。
ハレルヤがいなくなったのに、どうしてアレルヤは反応しなかったのだろう。双子、というだけあって、少し離れている場所に片割れがいても、どんな状況かくらいは何となく分かる彼らなのに……ここまで傍にいて、なお反応がなかったというのは…。
……が、その疑問はすぐに氷解した。
また(……だろう。この昼食の時間の遅さからして)、アレルヤは眠ってしまっていた。
しかも、どうやら熟睡のようで。殴っても揺さぶっても、耳元で叫んでも目を覚ましそうにない。
これならば、気がつかなくても当然だ。眠っているのだから、気づきようがない。
どうする?と目で訊くと、屋敷の主は肩をすくめた。何をしても今更ムダだから、放っておけばいい…という、意思表明だろう。
その意見には全面的に賛成だったので、刹那は黙って新しいパンに手を伸ばした。
できることはない。なぜなら、アレルヤは起きないだろうし、ハレルヤに追いつくことは不可能。吸血鬼の脚力に勝てる人間など、世界中どころを探したっているはずがないのだから。
いや……あるいは、自分なら。生まれながらにして、呪われた力を有している自分ならば追いつけないことも、無いかもしれない。
昔、故郷の人々が口々に「神からの祝福だ」と騒ぎ立てるのを眺めながら、何度「違う」と心の中で呟いたことだろう。神などおらず、したがって神からの祝福もない。それに、これは祝福ではなく、呪いだ。
ふと、唯一の理解者であった従姉の姿を思い出した。
彼女は……刹那の故郷、その国の女王である彼女は、果たして元気でいるだろうか。
まぁ……気にかける必要がないほど、それの答えはハッキリとしているけれど。