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じいっと、こちらを見ている影に気づいた。
その、自分のいる場所から少しだけ離れた所にいる少年は、自分よりも若干低い背で、ボロボロにも見える、裾の広がった黒のロングコートを着ていた。
一人きりで立っているその様子を見て、またか……と苦笑した。
彼は、たまにこの町に現れる。住んでいる場所も、家族がいるのかも、人かヒトかも、名前ですら分からない、そんな謎だらけの少年。
だが……とても良い子である、というのは知っている。人なつっこいことも。
だから、彼に出会ったらなるべく優しくする、というのがいつしか、この町の暗黙の了解、その一つになっていた。
苦笑を微笑みに変えて手招きをすると、少年は近づいてきた。もう何回もあっているから、フェルトとは顔見知り。だから、警戒心も何もない。
地面につきそうなほど長い黒髪に、澄んだ紅の瞳が、手を伸ばしたら触れることのできる距離まで来る。もちろん、瞳の方は触ろうなんて思っていないけど。
フェルトは微笑みを浮かべたまま、両手で抱えていたものを手渡した。
それはオレンジ色の球体……ハロ、と呼ばれるAI。
ハロは、自分が住み着いている家の主、イアンの手によって造り出された。かなり賢いロボットで、動力源はどこからか発見された『力』のこもった石らしい。くわしいことは知らないけれど、それはハロの中に内蔵済みで、『力』が無くなったらハロは止まってしまうのだそうだ。
そんなAIを自分から受け取った少年は、ぱぁっと顔を輝かせた。
彼が、可愛らしい物を好んでいるのは周知の事実。少年がここに現れたときからすでに、フェルトには何が目当てか分かっていた。
少女のように顔が整っている、少年の笑みを見た。
美しく整っている顔で、心の底から無邪気そうに笑うその様は、さながら『天使』のようで、見ているこちらも幸せな気分になる。
笑みと同様に、声も人ビトを幸せにする力があるのだけど……残念ながら、彼はあまり喋ってくれない。十回会って、そのうち一回でも「あ」と言ってくれたら良い方。そう、断言されるほどに。
もっと、話してくれたらいいのに。そうすれば、もっと、もっと幸せな気分に浸れるし……何より、今よりも彼のことを知ることができる。
いつか、ちゃんと会話をしてみたいとも思うけれど……実は、フェルトは今の、この時間だけでも十分満足感を抱いていた。