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18
町に着いた頃には、もう夕方になっていた。
宿……は、この町にはないのだそうだ。田舎すぎて、旅人なんてめったに来ない。だから、わざわざそんなモノを経営する住人がいないから、と。
ロックオンにそれを教えてくれた女性は、そういえば酒のビンを大量に抱えていた。あの量を、帰ってから全部飲んでしまうのだろうか……他人とはいえ、少々不安だ。適量なら害はないだろうが、あれは確実にそれを超えている、と思う。
そこはまぁ、置いておくとして。
自分としてもありがたいことに、彼女は一番大きな屋敷に行くといいと教えてくれた。そこに住んでいるのは少人数。部屋は有り余っていて、何も問題がなければ一泊くらい泊めてくれるという話だ。
話してくれた女性に礼を言って、今、ロックオンはその屋敷に来ていた。
広すぎる庭を通り抜け、館の扉を叩く。
これだけ巨大な家だ。叩いた音が聞こえても、玄関まで来るのには時間がかかるだろう。
住人が来るまで、庭でもじっくりと見ていることにする。
門からまっすぐここまで伸びる道。その両側を挟み込むようにして木が生えている。まさに、天然のアーケードのようだ。それらには『左右対称にしよう』という庭を手入れする者の意思は感じられなかった。支配下に置いて好きにいじるのではなく、自然は自然のままに、できうる限りの技能を持って、より美しく整えようという、そんな思いが伝わってきた。自分でも結構、気に入った考え方だった。
ただ……一つだけ、疑問が。
道から大分外れた、見ようと思わなければ目にも映らない場所。そこに、たくさんの花が植えられていた。色とりどりのそれらは、実に美しいと言える。
けれども、咲く季節がバラバラなはずな花たちが、どうして共にあることができるのか……それが分からない。
自分が、それぞれの花が咲く季節を間違えて覚えている、という可能性もあるにはあるが……そんなことが無いと断言できるほど、全く違う季節のものがいくつかある。
これは、一体どういう……?
などと思っていると、突然ドアが開いた。
館の住人の、お出まし。
挨拶をしなければ……と思い、顔をそちらに向けて、固まる。
扉から出てきたのは、二人。そのうち眼鏡をかけている方は、誰だか知らない。
だが、もう一人の……これまた自分と同じように、驚き目を見開いている青年には見覚えがあった。というか…ついさきほど、会った。
その青年は、森で目の前に現れた、あの『異端』だった。