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空の機嫌も良く、休日ともなれば、買い出しようと思う人間はやはり多いようで、喧騒を纏う人ごみの規模は平日よりも明らかに大きくなっていた。
別に、人ごみを厭うつもりは無い。喧騒は嫌いではないし、賑やかなのは好きだと思う。確かに人が多い分、警戒しなければならない事も多々あるとはいえ、呼吸をするように辺りに注意を向ける事が出来る身であれば特に問題という物も無いのだ。普通に人に紛れ、普通にこのような日に特有の活気を楽しむこともできる。……けれども。
今回ばかりは、どうしてもため息が出るのだ。
あぁ、何で自分が。
「おや、何だか不愉快そうですね。何かありました?」
「俺が不愉快そうだったとしたら間違いなくテメェが原因だからその類の発言は抑えろ」
振り向き首を傾げる南国頭に応じながら、スクアーロは額に手を当てもう一度嘆息した。
まったく、どうして自分はここにいるのだろうか。今日は何の用事もない休みの日で、たまにはのんびりとして日頃の疲れでも取ろうかと思っていたのに。
隣で「彼、咬み殺してこようか?」と物騒な事を言いながらトンファーを構えかけている雲雀を片手で制しながら、骸の隣を歩くカエルの被り物を軽く殴り付けた。
ぼす、と軽い感触。
それと同時に、くるりと後輩がこちらを向いた。
「痛いですよー。何するんですかー」
「煩ぇ、誘拐犯その二」
「誘拐犯って、だからそれは師匠だけですってばー。ミーは巻き込まれただけですよー。共犯なんかじゃありませんー」
ニコリともせず、フランは言う。
「確かに、自分から師匠を本部の中に手引いてはみましたし、自分から逃走用の車も用意しましたけど、結局それだけでしたしー」
「完全に共犯じゃねぇか」
自分から、とか言っている時点で確実にアウトだ。
それでよくもまぁ共犯じゃ無いと言えたものだと呆れながら、しかし、と痛みだした頭を軽く押さえる。しかし、一体どこに暗殺部隊の本拠地へ他者を招き入れる暗殺部隊幹部がいるというのだろうか。
「ここにいますよー」
「……心の中を読んだような発言してんじゃねぇよ」
「いや、別に読まなくても顔にありありと書いてありますしー」
「……ねぇ、やっぱり咬み殺しても良いかな」
と。
不意に、雲雀が静かに零すように言った。
匣を持って指輪に紫の炎を灯しているその様は、既に彼が臨戦態勢に入っている事を告げている。どうやら何の前触れもなく寝ている間に勝手に外へ連れ出された事に対し、彼も相当な苛立ちを感じているらしい。まぁ、あんな誘拐紛いの行為にそれ以外の感情など覚えようもないだろうが。
そんな雲の守護者を見て、骸がやれやれと肩を竦めた。
「そんなに短気ではこれからの人生で色々と苦労しますよ?」
「余計な御世話だよ。あと、この短気の原因にだけその類の事は何も言われたくない」
「おやおや、まるでそちらのヴァリアー次席の様な言葉ですね」
くすりと笑って骸は答え、ふむ、と手を顎にあてた。
「ですが……まぁ、御二人の苛立ちも何となくは分かるのです。前振りも無く部屋から、しかも寝ている間に連れ出され、こうやって誘拐犯たる我々と一緒に街の中を歩いているというのですから、それはもうとんでもない不満を覚えているのでしょう」
「分かってるならいい加減、僕らを解放してくれないかな。そして咬み殺されて」
「駄目ですし嫌です」
匣を片付けながら眉間にしわを寄せ、腕を組んで睨みつける雲雀の眼光をさらりと受け流すような涼やかな表情を浮かべ、骸は続ける。
「貴方達がいないと、私、困ってしまうんですよね」
「人手が足りねぇならいつもの取り巻き連れてくりゃ良いだろぉが」
「いやいや、必要なのは人手じゃないんですよ。アイディアを出してくれる頭と口です」
「頭と口?」
「えぇ。頭と口です」
「何でそんなものが必要なのかな」
「というのもですねー、師匠ってば、手詰まりらしいんですよー」
「……何に?」
何となく嫌な予感を覚えながらも尋ねると、まるで当然の事の様に骸は口を開いた。
「クロームの誕生日プレゼントの内容を考える事に、です」
「……」
その言葉に一瞬、沈黙して。
スクアーロは、隣に視線を滑らせた。
すると雲雀と視線がかちあい、互いに頷き合う。
「帰るか」
「帰ろうか」
「ちょ……ちょっと、御二人さん!?待って下さい!貴方達だけが頼りなんです!」
「頼られたとしても答えてやる必要ねぇ」
慌てた様子を見せる骸に冷たく視線をやりながら、踵を返しかけた体をそのまま止めて、胡乱な視線を彼の方へと向ける。
「他当たれ。京子とかハルとか、あの辺りに訊きゃああっという間だろうがぁ」
「それじゃ駄目ですって。何をあげるのかが直ぐにばれちゃいますよ。渡す事が既に知られていたとしても、何を贈るのかだけは知られたくないんです。それじゃあ、どうやってもサプライズにはならないでしょう?」
「渡すことがばれてる時点でサプライズじゃない気がするんですけどー」
「フラン、貴方は黙ってなさい。……ともかくそういうことなのです。クロームが喜んでくれそうな物に何か、心当たりとかありませんか?」
「服とかで良いんじゃないの?」
「残念ですが、それは昔贈りました」
やる気が無さそうな雲雀の声に、骸が首を振って答える。
「ブローチやネックレスなどの装飾品も既にあらかた贈りましたし……本もあげました。小物入れもオルゴールもぬいぐるみも小物も既に贈り済みです。朝から並ばないと変えない有名店のケーキだって仕入れましたよ?一日中一緒にいてあげた事もありました。というわけで……本当に手詰まりなんですよねぇ。新しい案が浮かばないんです」
「……テメェ、本当にヴィンヴィチェの牢獄に入ってたのか?」
「入ってましたよ?」
その割に、贈った『誕生日プレゼント』がやけに多そうなのは気のせいなのだろうか。
きょとんとした表情を浮かべる骸の横で、フランがやれやれと言わんばかりに肩を竦め、妙に疲れた表情を浮かべていた。
……この様子からするに、復讐者の牢獄にいる間は、外にいるメンバーとどうにか連携を取り、時にはクロームの身体をこっそりと使って外に出て、贈り物を入手して彼女に贈っていたのかもしれない。そうでなければ、とてもじゃないが彼の発言に説明がつきそうにもなかった。まさか、一度に大量過ぎる贈り物をしたとも考えられないし……いや、彼なら有り得そうな気もするが。
骸からの『お願い事』を聞く前に吐いていた物とは違うため息を吐いて、投げやりな気分を抱きながら口を開く。
「手作りケーキでもくれてやったら良いんじゃねぇか?」
「……それは」
そして骸が見せた反応は少し意外な物だった。
思わず、数回瞬く。
「何か問題でもあんのか?アイツが今ダイエット中とか」
「いえ、そんなわけじゃないんですけど……ケーキ、実は作った事無くて。こういう時は手作りが好まれるのは分かってるんですけど、ね」
「……あ゛ぁ」
成程そう言う事かと頷いて。
スクアーロは、話の訊き手になっていた二人の方に視線をちらりと向けた。
それを受けて、カエルの被り物を付けた方は呆れた表情を浮かべ、雲の守護者は不機嫌そうな表情を浮かべる。どうやら両名共に自分が彼に協力をしようとしている、ということが分かったらしい。
そして、全く手伝う気はないらしい二人から視線を逸らし、改めて骸の方を向いて言う。
「仕方ねぇから手伝ってやる」
「え?……良いんですか?」
思いもよらない言葉だったのだろう、目を丸くしている彼に頷き返して息を吐く。
「……ここまで関わっちまったら、放り出すのも何か寝覚めが悪ぃだろうが」
言いながら思ったのは、一体今日は何回ため息を吐いただろうか、ということだった。
(END:secret クロームへのプレゼント)
(END:secret クロームへのプレゼント)
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