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かの屋敷の屋根の上に、一人の少年がいた。
黒いボロボロのコートを身に纏い、膝を抱きかかえるように座っているその少年は、紅の瞳を出ている月に向けていた。あと幾日かで満ちる月を。
あの月が、自分に似ていると言ったのは誰だったか。
……まったく、どこに目を付けているのだろう。自分はそんなに綺麗なものじゃないし、皆を照らすようなそんな、素晴らしい存在にはなれない。
あぁ、あるいは合っているのかもしれない。月は、太陽がなければ輝けないから。あくまで他者に頼らなければ、その存在すら消えてしまう。
ふと、思いめぐらせるのは先ほどの光景。
キッチンで、ロックオンとアレルヤが話していた光景。
……その時には想像も出来なかったが、後々考えてみると、あれはかなり酷い手段だった気もする。
ロックオンという『狩人』が、アレルヤという『異端』の話を聞く。その下地を作ったのはハレルヤだと聞いた。彼が『狩人』と先に会っていたから。
それがあったからアレルヤは会ってすぐに撃たれなかったし、彼もトリニティという『異端』たちに手を、一応は出していない。
けれども、そういう状態であっても、やはり狩る者と狩られる者の間に、深い溝があるのは間違いない。あんなに簡単に話を聞いてもらえるなんて、普通では有り得ない。
彼の言っていた言葉を少し借りると…『狩人』にとって『異端』は『敵』なのだから。
なのに、どうして、彼はアレルヤの言葉を聞いたか。
それは……恐らく、驚いていたから。
『敵』のはずの『異端』がとても親身になって言葉を紡ぎ、『狩人』である彼のことを理解しようと……していたから。
驚きで隙だらけになった生き物の心には、いとも簡単に言葉が滑り込んでくる。
感情が、意思が、過去が、決意が、聞こうとするその反応を妨害しないから。
だから、簡単に話を聞いてもらえる。
つまり、アレルヤは彼の中に隙を作り出して、それにつけ込んだともいえるのだ。
たとえ無意識であっても。
そのことに、ほんの少しの後悔を覚える。
選択をしてしまったのは、他でもない自分なのだから。
「……また変な方向に思考がいってますね」
唐突に響いた声につられて後ろを向けば、そこには金眼の少女がいた。
ソーマ・ピーリス。
大切な、お友達。居場所の一欠片の少女。
「いつも悪い方向へ考えるのは、貴方の悪い癖です。直してください」
「……癖って、直らないから癖なんだよね?」
「直るから癖なんです」
そう言いながら、ソーマが隣に腰を下ろした。
何?と首をかしげると、彼女は口を開く。
「明日の朝食は、私もいただいていきます。良いですか?」
「そのくらい、当然だよ」
むしろ、もっとたくさんのお礼をしたい身としては。
その申し出は少々、物足りなくはあった。