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ティエリアは一人、鏡の前にいた。
光の届かない地下にあるそれは、壁のロウソクの仄かな明かりに照らされている。
その鏡の大きさはゆうに二メートルに及ぶ。周りを飾っている枠は、実に豪華で美しい……が、下の方に僅かに傷がある。これは昔、自分と双子が遊んでいたときに、謝って付けてしまったものだ。小さな頃は、よくこの地下の小部屋に入って色々としていた。こうなる危険性は確かにあったわけだ。
そんな傷があり、完璧とは言えないこの鏡だが……それが理由で日の光を見ることができないわけではない。そうであったら、傷がつく前からここにある必然性は全くないわけだ。これがここにあるのは、そうしなければならなかったから。
「……ヴェーダ」
鏡の名を呼び、手を鏡の表面に伸ばす。
ひやりとした感覚が伝わってきて、それから黙って瞳を閉じた。
……この鏡がここにある理由。
それは、この鏡の『特性』にあった。
真実を見せ、全てを教える……という『特性』が。
そんな鏡を、万人が見ることのできる上へ置いておくわけにはいかない。何があるとも知れないからだ。この鏡は使い様によっては危険で、実際に『特性』のせいで事故は起こってしまった。
だが、正しく使えばこれほど便利な物はない。自分が見ることのできない世界、知り得ない道理……何でも、それが本当にあるのならば見せてくれる。
「都からの『狩人』はどこにいる?」
問いを発すると、答えであろう情報が頭の中へ流れ込んできた。
膨大な量の情報は、まるで波に襲われ流されるような感覚をティエリアに与える。流されながらも自らの欲しい情報を選び出す。それが使用者の義務。
「普通に歩いて、ここから三日の距離……?時間はないのか……」
心地の良い冷たさから離れ、ティエリアは腕を組んだ。
三日……遠いとも言えず、また近いとも言えない。微妙な距離とはいえるだろう。
早急に手を打つべきだろうか?それとも静観するのが正しいのか。
町に入れてしまうことは?そうやってやりすごすか、それとも怪しまれてでも拒否をするべきか。
どれが、最も適切だろうか。
思い、再びティエリアは目を閉じた。
朝までは時間がタップリとある。
皆が起きるまで、じっくりと考えていよう。
ただ……ティエリアは失念していた。
ヴェーダは『普通に歩いて』三日の距離、と伝えたことを。