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むしろ幼少時代だけれど気にしない。
05.背伸びして
「……んー、無理かな……」
『何がだよ』
「あれ。取りたいなって思って」
大して偉くもないくせに威張り散らかす研究員達の実験が終わって、アレルヤとハレルヤは被検体が集まるちょっとした広い空間へと戻っていた。
片割れが指さしたのは、少し高い棚。その一番上の段に載っている黒い背表紙。つまり何らかの本。
どうせ、研究員か誰かが置いて、そのまま忘れて行ってしまったのだろう。
そしてそれを、アレルヤが見つけたというわけだ。
『お前も好きだよな、本読むの』
「おもしろいじゃないか。ハレルヤは思わないの?」
『思わねぇから言ってんの。大体、読んだって分かることは少ねぇだろ。元々の知識からねぇんだから。文字追うだけで、何が楽しいのか分かりゃしねぇ。つーか、普通の声の大きさで話しかけんな。変な目で見られるだろーが』
と言いながらも、ハレルヤはあの本を取る算段を考えていた。
台になる物はない。椅子に乗ったところで、あとほんのちょっと届かないだろう。背の高いヤツに頼むのも手だが……それはそれで、どこか気に入らない物がある。あくまで気分の問題だけれど。
さて……どうしようか。
「ねぇ、椅子の上に乗ったらどうかな?」
『ギリギリ高さが足りねぇって…』
「背伸びとかしてさ」
『安定しねぇぞ。てか、お前がやったら間違いなく落ちるから』
こういう所で鈍くさかったりするアレルヤのことだから、落ちた上に後頭部を強か打ち付けるのだろう、固い床に。
それは……かなり遠慮したい。片割れの痛みは自分の痛み。こんなどうしようも愛ことで痛い思いをするのはゴメンだ。バカバカしいではないか。
しかしまぁ、確かにそれくらいしか手は無いわけで。
『……しゃーねぇな…椅子もってこい。俺が取る』
「え?いいの、ハレルヤ?」
『言ったろ。お前がやったら絶対に落ちる』
事前防止策だ。これは。
ハレルヤならそんなヘマはしない。己のプライドとかその他諸々にかけて、絶対にしない。何より、アレルヤに痛い思いをさせるワケにはいかないから。
近場からパイプ椅子を持ってきたアレルヤと交代して、ハレルヤはそれを一番使いやすそうな場所に置いた。
『ハレルヤ、気をつけてね』
「大丈夫だって。俺はお前みたいに鈍くさくないし」
『でもさ……ハレルヤだって、たまにこういう場面で失敗するよね』
「しねぇって」
答えて棚に手をやり、黒い背表紙に手を伸ばす。
指先が表装を掠め、そして…何とか本をたぐり寄せたところで。
バランスが、崩れた。
「うおっ!?」
『ハレルヤっ』
とっさのことすぎてバランスを保つことも出来ず、ハレルヤはそのまま後ろに倒れてしまった。
後頭部に、鈍い衝撃。
……何という不覚だろうか。
「ててて……」
『大丈夫!?ゴメンね…僕が本を取りたいって言ったから…』
起き上がりながら、痛む頭をさすっていると、内からアレルヤの泣きそうな声が。
ハレルヤは安心させるように笑って見せ、手にあった物を軽く持ち上げた。
それは、一冊の黒い本。
「取ったぜ?」
『…うん。ありがとう、ハレルヤ…!』
「痛みが引くまで待ってろよ?それからでも読書は遅くねぇな?」
『え……でも……いいの?君が痛いままだけど…』
「気にすんな」
元々痛みには強い質だし、実は痛みもそれほどでもない。
とりあえず本を抱えて、ハレルヤはさっきまで立っていた椅子を壁際にやって、それから腰掛けた。
ちょっとだけ、眠らせてもらおう。
その考えを汲み取ったのか、笑いを含んだ声が聞こえてきた。
『おやすみ、ハレルヤ』
「おー。おやすみ、アレルヤ」
言って、ハレルヤは瞳を閉じた。
目が覚める頃には当然、痛みはひいているはずだ。
ほのぼのとして……る?