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……夕方までに帰れたら良い方、だろうか?
酒をなみなみと注がれているグラスを手に、ティエリアはため息を吐いた。ハッキリ言うと、早く帰りたい。
目の前にいるのは、この町の町長。スメラギ・李・ノリエガ。彼女にはまとめ役としての才覚はあるようだが……極度の酒飲みであるのが問題だ。お陰で、訪れる度に絡まれ、酷く困っている。
……というか、自分は未成年なのに、酒を勧めて大丈夫なのだろうか?
「スメラギ・李・ノリエガ、いい加減に……」
「いーじゃないの……ねー?」
ねー、じゃない。
苛立ちを押さえながら、ティエリアは窓から外を見た。
ここは、町の中央にある高い時計塔、その最上階の部屋。代々、町長はここで仕事をすることになっている。恐らく、町を見渡せるようにという理由からだろう。
眺めを見れば、屋根の低い家々が並び、石製の道が四方に八方に伸びている。
そして、町から少し離れたところに、自分の家。石造りの町に属していながら、森に囲まれ木々と共にある大きな屋敷は、実に異質なものとして瞳に映った。
そして、それが事実だと、ティエリアは知っている。あの場所は、何もかもが異質だ。ヴェーダのことも、自分を含めた住人たちのことも。それから、鏡以外のもう一つの秘密のことも、全てをひっくるめて。
決して、この普通の町と相容れることはない。
つらつらと、そんなことを思っていると、ふいにスメラギが口を開いた。深刻そうに、大切な話をするように。
「でも……いいの?」
「何がです?」
「トリニティは結構な問題児よ?今まで、町をいくつも壊してきた。『狩人』の彼の方も、かなり名前を知られているようだし……危険じゃないかしら?」
スメラギは単なる町長ではない。優れた情報屋でもある。
だから、彼女の言葉は本当なのだろう。問題児というのも、名前を知られているというのも、危険だというのも。
しかし、そのくらいは始めから分かっている。今の屋敷は、とても奇妙な状態でバランスを取っているということ。同じ場所に『異端』と『狩人』がいるというのに、争いが未だに起こっていないという、奇妙な状態の中で。
きっとピースが一つでも外れれば、あっというまに崩れ、仮初めの平穏が消え、争いが始まるということも。
だが、そんな場所だからこそ価値がある。安定しきった場所には変化は生まれない。安定してしまっているのだから、変わりようがない。
対して、あの屋敷は変わるしかない。変わり続けることでしか、今はバランスを保てない。そんな状況にある。
だからこそ、危険を冒してでも……彼らを置いておく価値があるのだ。
「分かっています」
だから、ティエリアはそう言うに止めた。