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陰にとけ込むよう、黒衣の少年が歩く。
日だまりを避けるように、人目につかないように。
……別に、眩しい陽から逃げているわけではない。つまり人に見つからないようにと行動していたら、自然とそうなってしまっただけだ。
敵……であろう気配が、近付いている。明日にでもなれば、この町が戦場になっているかもしれない、というくらいには。驚くほどのスピードで、有り得ない速さで、その気配は移動していた。どういうことかは分からない。けれども、彼らが近付いているということ、それだけは分かる。
だから、少年は町に仕掛けを施しているのだ。
両手に抱えているのは、魔石と呼ばれる透明な結晶。
これは宝石としても使われるが、魔法を使う要領で力を込めてやれば、それを魔力に変換し、溜め、増幅し、その結晶の特性を発揮するするという特性を持つ。
色によって力には違いがある。例えば……緑色なら、エネルギーを機械といった、無生物の対象に取り付ければ、半永久的に動かすことが可能になる。椅子に付ければ寿命が延びるし、座り心地も良くなるようだ。
今、少年が持っているのはいくつもの魔石のうち、青い色をしたもの。
この結晶が持っている能力は、丈夫で透明な壁を造り出すこと。
少年はこれを、町の至る所に『埋め込ん』で、すぐにでも能力を発動できるようにしていたのだ。そうすれば敵が来ても、壁を造り出して町へ入れずにすむ。
発動をすることがないのが一番だけど……と思いながら、誰も足を踏み入れないような細い路地に入る。
行き止まりに突き当たって、少年は意思を一つつまんで、その手を前へ突き出した。
壁にぶつかるはずのソレは……とぷん、という音と共に、石造りの建築物の中へと呑みこまれていく。
再びその手が洗われたとき、手にしていた結晶は無かった。
……これが、人に見られないようにする理由。町の人ビトは、とても良くしてくれる。
けれども、こんな『普通でない』自分を見て、それでも今まで通りというのは……無理、だと思う。
それは、酷く悲しい話だ。
居場所を……追われるということだから。
そういうわけだから、周囲への警戒もしっかりとしていた。他人が来れば、すぐに気がつけるようにと。
だというのに。
「……お前は、何をしているんだ…?」
ふいに、後ろから声が響いてきた。
驚きと共に振り返り……納得した。
…あぁ、どうりで反応しないはずだ。他人、ではないのだから。
そこにいたのは、ティエリアだった。