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驚いた、だなんて言葉ではこの感情は言い表せない。
あの……吊されている男性の隣で笑っていた少年。彼が裂け目を作り出したのは良いとする。いくらたくさんの『異端』の能力があるとはいえ、被らない物が無いわけではないのだから。ソーマと同じ能力でも、別に。
だから、驚いたのは別のこと。
そう、彼が生み出した裂け目から現れた四人の人物が問題だった。
見た瞬間に思ったのは、有り得ない、ということ。今、町は自分が作り出した壁が囲われている。特殊な力も自分の物以外は、ほとんど壁向こうには効力がないように設定してある透明な壁によって。だから、あの四人がここに現れることはないはずだった。
次に察したのは、あまりあちらに意識をやっていては危険だということ。相手をしているアリーという男性は、ちょっとだろうと気を抜けない相手だった。そんなことをしてしまったら、その瞬間が命の火が消える時。
生憎だが、自分はまだ死ぬ気はないのだ。
最後に行ったのは、声を変えてから叫ぶこと。
もちろん、戦っている相手からは視線を外さずに。
しなくても良いことだったろうが、せずにはいられなかった。
「ハレルヤその男の子どうにかして!」
「はっ…言われるまでもねぇよッ!」
やはり必要は無かったようだと、その言葉を聞いて笑った。
言い終える頃にはすでに、彼は裂け目から出てきてそのままの勢いで、この状況を作り出したのであろう少年の頬めがけて拳を繰り出していたのだから。
だがしかし、その拳が相手に触れることはなかった。
少年が一瞬消え、別の場所へと現れたからだ。
剣を交えながらも思わずそちらに意識をやってしまうほど、それは驚愕する光景だった。
一人の『異端』につき、持っていたとしたら特殊な能力は一つ。特別な例を覗いて、その原則は破られることはない。
なのに少年は、二つも使って見せた。
これは一体……。
「って…注意散漫にしてる場合じゃないよ、ねッ!」
「くっ……」
どれだけ疑問があろうと、彼を倒すのが先決だ。
間合いに踏み込んで力一杯剣戟を繰り出すと、相手は素速く剣で受け流した。が、思い切りやったのだ。少しの間、腕はしびれてしまうだろう。
畳み掛けながら、思う。
……実はもう、一つだけ答えは推測されているのだ。恐らく、これで正解だろうという答えを。
もしもそれが当っていたとして……だとしたら、あの少年がこれからどんな魔法を使おうと、何ら不思議ではない。それは同時に、相手が何をするかを予測するのが酷く困難だということでもある。
ならば。
もう一撃、横殴りにくらわせてから地を蹴って距離を取り……四人が居る方へと向かう。
そして刹那の腕を掴み、ハレルヤ、ロックオン、ネーナの方を見る間も惜しんで走り出した。
何をされるか分からないなら、逃げてしまえばいい。そうすればある程度、相手の行動を制限できる。今、彼らを止めることが出来ないのは残念ではあるが、ここで負けてしまったらそれこそ意味はない。
それに何より、ここに刹那が来てしまったことが問題だった。
後ろから追い掛けてくる慣れ親しんだ気配たちを感じ、自分に腕を掴まれて困惑している少年の雰囲気に苦笑を浮かべる。そうでもして居ないと、やっていられない。
一番、遠慮したい状況になってしまったのだから。
彼は、あの傭兵の姿をしっかりと目にしてしまっただろうから。