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一瞬だけ、異質な風を感じて足を止めた。
辺りを見渡してみても、そこには見慣れた町の風景が広がっており、普段と何の違いもない。
気のせいだろうか……と思って再び歩き出そうとして、そこで隣にいたソーマも、先ほどの自分のように立ち止まっていることに気がついた。彼女も何か、感じるところがあったようだ。
では……もう一人、ミハエルはどうだろうか?
いつの間にか後ろの方にいた彼を振り返って、僅かに違和感を覚えた。なんだか、彼の雰囲気はどこかが妙に思える。
ソーマも同じ事を思ったらしい。困惑した様子で口を開いた。
「……ミハエル・トリニティ?」
「…ん?…あぁ、何だ?」
「貴方、どこか変わったように思えるのですが…」
「そうか?」
不思議そうに首をかしげる彼に、フェルトは得体の知れない物を覚える。
おかしい。まだ会ってから時間はそんなに経ってはいないが、喋り方や表情について、それらが普通と違うワケでもないのは分かる。けれど、根本的などこかが、さっきまでの彼とは全く違うように思えた。
だからだろうか……さっきから、頭の中で警鐘が鳴っている。
今すぐ、ここから立ち去るべきだという、警鐘が。そうしなければ、手遅れになるという……理由もない焦燥のもとで。
「ソーマ…早く、行かないといけない気がする…」
「それは私も思っていますが…ミハエル・トリニティを放っておくワケにもいきません」
「たしかに、そうだけど……」
思わず口ごもるが、自分にはちょっとした確信があった。
多分、今はそのミハエルが問題だ。
この確信は、フェルトの座敷童であるがゆえの物なのだろうか。
座敷童という種族は、運と不運と深い関わりがある。
それはつまり、幸と不幸を司るともいえるわけだ。運が良ければ幸せになれるし、運が悪ければ不幸になる。一概にそう言い切ることはできないが、それでもそれらが密接に関係していることは事実なのだ。
だから、分かる。
このままここにいたら、きっと『不幸』になると。
それから……ミハエルに『不運』なことが降り掛かったということも、理屈でなく感じ取っていた。
「座敷童として言うけど……やっぱり、行かないと…」
「そう…ですか。なら、今すぐ屋敷に行くべきですか?歩いていくべきですか?」
「今すぐ」
言い切ると、ソーマはこくりと頷いた。
それからすぐさま無言で裂け目を傍らに作り出し、フェルトの手を引いてそこへと飛び込んだ。恐らく、ティエリアの屋敷へと繋がっているのだろう。
そこに入る間際に見えたミハエルの、すぐ後ろに。
白い服を着た黒い長髪の半透明の子供が見えたような気がしたのは、果たしてフェルトの気のせいだろうか?