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「貴方は、一体何を知っているのですか?」
「何を、とは」
「今起こっているらしい事全般について、貴方が知っている事柄」
彼の口から語られたのは、特殊な存在がミハエルに取り憑いているということ、狩人の集団がこの町に迫っていること、その総数、放っておけばこちらに被害が生じるということ、そして……既に、自分たちが関係者となっていることだった。
関係者という言葉に、いつの間に……という気持ちが無くはなかった……が、二人の弟妹の性格を考えると、なるほど、そういうことも有るだろうと納得できる。二人とも、厄介事に首を突っ込みたがるタイプだ。
「語るべき事は語ったと思うが」
「えぇ。今現在、必要となっている知識は与えられたのでしょう」
「ならば、それでいいだろう」
「そうかもしれませんが……ハッキリしない事態、というのは些か気分が悪い」
例えば、どうして狩人の総数を知り得たか。
例えば、彼の屋敷の時間の流れ。
例えば、ソーマといた、あの、黒衣の子供。
どれも、知っている様子ではあるのだ。しかし、唇は結ばれて、言葉が紡がれる気配すらない。まるで、ヨハンが立ち入るべき領域ではないとでもいうように。
恐らく、そうなのだろう。自分にはそれを知らされる権利は無い。少なくとも、まだ。
出会って日も浅いが、ティエリアが無駄なことをする人間ではないことくらい、容易に理解できる。従って、必要のない黙秘は行われない。
だからといって引き下がる気も無い。明確に現状を見ることが出来ないのは、本当に気に入らないのだ。知らない内に誰かの手駒になっている、なんてことが起こらないとも限らないのだから。
しかし。
ティエリアは溜息を吐いた。
「……残念な話、俺にはこれ以上話して良いか、判断しかねる」
「というのは?」
「話の中心にいるのは俺ではない、ということだ」
言うべきだろうという義務感。だがそれを持つと同時に、秘密のままにしておきたいという躊躇いも見え隠れしており。
そういう感情を彼の表情から読み取り、ヨハンは困惑した。
どちらが本音なのだろうか。両方だとしたら、それは何故。相反する思いが存在するには、何らかの理由が必要だろう。
「時期さえ来れば、自ずと分かるだろう。その時が来るかは保証しかねるが…」
「構いません。可能性があるのなら、それはそれで」
「……『可能性』か」
薄く、彼は笑った。
自嘲的な風に。
「ならば気をつけた方が良い。それは待っていても、自ら歩いてくる物ではないからな」
「自分で奪い取れとでも?」
「いいや。あちらから向かってくるよう、仕向けろと言っている」
できるものならやってみろ、という響きを汲み取り、ヨハンも口端をつり上げた。
やってみせようという、意思を持って。