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「そういえば……あの青年と、貴方は会ったことがあるんですか?あちらは貴方のことを知っていたようですが」
「初対面だろ。少なくと俺には顔見た記憶はねぇ……が、まぁ…どういう関わりがあるのかくれぇは分かったぜ」
狩人たちのいた場所から、自分の部下たちが待つ場所へと向かいながら、アリーとリボンズは話していた。それらは専ら情報交換で、今後起こるであろうことに備えるための行動でもあった。
未知の相手と戦うときに、それでも出来うる限りは有しておきたい最大の武器。それが情報。ほんの少しのこと……例えば髪の色だとか姿だとか、何でも良い。とにかくそれを一つでも多く知っているかどうかで、生死が決まると言っても過言ではないのだから。
だが、今回は残念なことに、どちらも物を知らなすぎる。あの青年が目標なのかどうかさえ判別できない。目標と関係しているだろう事は容易に想像できるものの、しかし結局はそれだけである。どんな力があって、どれほどの技量があって、どのような性格なのかさえ……いや、性格の方は少し分かる、か。守りたい物があったら、とにかく自分の手で守ろうとするタイプ。
人間ではないらしい隣を歩く少年が、人質として連れてこようとしたあの子供と一緒にいた片眼の隠れている青年。彼とどうやら知り合いだったらしいあの黒コートの青年だったが、ならばどうして彼を誘わずに青年は来たのか。味方は一人でも多い方が良いはずだし、どうやら彼はある程度の腕っ節はあるようだった。
なのに何故連れてこなかったのか……それは純粋な巻き込まれて欲しく無いという思いからか、あるいは考えつかなかったのか……おそらく、前者だろう。後者を浮かべないほど愚かには見えなかった。だからこそ、ほんの僅かだが性格が掴めたわけだが。
そしてそれは、青年の言葉と共に、過去の話に繋げることが可能だ。昔、ここへと差し掛かった時に起こったあの事件……とも言い難い、そんな事について。何せ、事件を起こしていたのはこちらなのだから。
「関わり、というのは?」
「俺がここら辺に来たことがあるってのは……分かってんのか」
「えぇ。先ほどのあの青年の言葉が正しいのなら」
「昔な、俺はここらに仕事で通りかかったんだよ」
その時の仕事はある『品物』を運ぶことだった。依頼主のいる都の方へと。
檻の中に入れていたソレは生物で、ともすれば自力で逃げ出す恐れもあったのだろう。けれども所詮、それは可能性の話に過ぎず、実際に行えるかと言われれば否と答える他はないだろう。特注の檻、巻かれた鎖、打っておいたクスリ。食事も生きる最低限のものしか与えなかったし、体力なんて物は無に等しかっただろう。
それでも、ソレは逃げ出した。状況からして『逃がされた』としか考えられなかったが……誰によるものかは、到底分かり得なかった。
「貴方はその『商品』…というのを逃がしたのがあの青年かと?」
「十中八九そうだろ。それ以外に、ここらで仕事ってのも無かったしな」
「では…『商品』とは何だったのですか?どうせマトモなものじゃ無かったんでしょうが」
「分かってんじゃねぇか……なぁ、お前はさっき、どうしてあのガキを捕まえたんだ?」
「いきなりですね……見つけやすかったというのが一番あっているでしょうか……異端と狩人の気配は分かるので避けましたが、それ以外の誰か……というところで、彼はどこか違う空気を持っていたように思えたんですよ」
「へぇ……すげぇな。そりゃ正解だぜ」
くつくつと、アリーは笑った。
笑って、言った。
「あのガキが『商品』だったんだよ。こっから結構な距離のある国から連れてきた、大分価値のあった『商品』だ」