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一万打記念です。
途美学園で特別記念公演。
『かぐや姫』こと『竹取物語』です。
『みなさんお静かにー!』
スピーカーから明るい声が響き、ざわざわとしていた生徒及び教師は、水を打ったように黙り込んだ。ここで騒ぎ続ければ劇の開幕が遅くなる。今日という日を誰もが楽しみにしていたのだ。何も、始まりを伸ばすことはない。
そんな彼らの様子を確認したのか、再び響く声。
『始める前に諸注意です。
今回のこの劇は、各役者たちは自分の役は当然知っていますが……それ以外は知りません。私たちみたいに、誰が誰なのかを自分以外は把握していないんです。舞台に上がるまで、知ることは出来ないそうで……その上台本もかなり適当、名前は変えずに本名を呼べっていう、なんともハチャメチャな公演になります。
覚悟は良いですね?……それでは、学園所有者ヴェーダ主催の、特別講演「竹取物語」、開幕します。ナレーターは私、クリスティナ・シエラが行います。よろしく!』
「お帰り、おじいさ……じゃなくて、刹那。今日も仕事ははかどったかい?」
「あぁ……変なのを見つけた」
「変なのって…もしかして刹那、劇をちゃんとする気、無い……?」
「当然だ」
舞台の上で交わされる会話。
…ここから既にグダグダになる気配が漂っている。
「……とっ…とにかく……何を拾ってきたのさ」
「手のひらサイズの小さな人間。宇宙人じゃないか?」
「いやだから……ううん、いい」
アレルヤが吐いた溜息に合わせるかのように、照明が暗くなる。
『それ以来、お爺さんが竹を取りに行くと、中に黄金の入っている竹を見つけることがしばしばありました。そして、拾ってきた小さな人は、あっと言う間に大きくなり、それはそれは美しい女性に育ちました。彼女は後に、かぐや姫と名付けられます』
再び照明が付き、そこにいたのは刹那とアレルヤと……ティエリア。
新たに出てきた十二単を着るティエリアは見るからに不機嫌そうで、しかし舞台に立っているということは劇を続ける意思はあるのだろう。
「ねっ……ねぇ…ティエリア……」
「何だ」
明らかに怯えているアレルヤに応じるティエリア。眉間にしわが寄っている。
……別に、アレルヤの様子はティエリアの態度故ではない。これから言わなければいけないセリフ故、であった。この状況では自殺行為とも取れる、そのセリフを言う事。それがあったために、ここまで怯えていた。
二、三回深呼吸し、腹をくくったらしい。彼は、口を開いた。
「結婚とか……どうするんで…じゃなくて…どうするの……?」
どうやら、ため口で話せと台本に書いてあったらしい。いつもと違って敬語をやめるアレルヤは、さぞ新鮮であったことだろう。だが、内容が内容である。眉間のしわはますます増えるばかり。
しかも、さらに追い打ちを掛ける刹那の言葉。
「とっとと嫁に行け」
「刹那っ!簡単にそんな恐ろしいこと……ッ」
「安心しろ、アレルヤ。既に候補者は五人に絞られている」
どこをどう安心するのかは不明である。
『そして夜、その五人の人々が現れます。名はそれぞれ、石作の皇子、車持の皇子、左大臣阿倍のみむらじ、大納言大伴の御行、中納言石上の麻呂たり。求婚し続けた彼らに、かぐや姫は結婚の条件を出します』
「いーやーだーっ!俺は行かねーッ!」
「諦めなさい、ハレルヤ・ハプティズム!ヴェーダが配役を決めている以上、こうなることも予測できたでしょう!?」
「できたけど!けどコレはイジメだろ!?」
「我慢なさい!」
そんなやり取りと共に舞台に引き摺られ……否、上がってきたのはハレルヤ。引き摺っているのはソーマである。彼女は従者の役所のようだ。
絞られた五人はある程度の身分がある、ということなので、一人二人ほど従者が付くことになっていた。各人、所縁の者ということだったが…。
「ハレルヤは誰の役?」
「大伴の大納言……竜の何かを取ってくる役。……アレルヤ、俺、逃げれねぇかなぁ……」
「頑張って、ハレルヤ。僕はここで応援してるから、ね?」
そう言って軽く双子の兄を抱きしめる弟に、ギュッと抱きつく兄。
とても素晴らしい兄弟愛であるが……そんな事を黙って見過ごす舞台上の三人ではなかった。三人がかりで、あっと言う間に引き離されてしまう。
恨みがましい顔で三人をハレルヤが睨め付けた所で、次の役者が現れた。
といっても二組。しかも二組とも気絶している一人を、従者役であろう一人、あるいは二人が引き摺っている状態だ。動かない分、まだソーマとハレルヤの時よりは楽そうに見える。所詮は程度の問題であろうが。
「遅れて済まない。脱走しようとしたミハエルを捕まえるのに苦労した……」
「HARO踏んで転けて、そこに丁度炭酸もいたの。その時に二人とも気絶して、本当にラッキーだったよね!」
「全く……決まったことなのだから、諦めでもすればいいだろうに」
舞台中央で服の襟を持っていた手を離す、ヨハンとカティ。ネーナは途中から兄を手伝うのを止め、刹那の方に引っ付いていた。引っ付かれている本人は、酷く迷惑そうだ。
「こんなのが求婚者役とは……笑えすぎて見下す思いしか無い」
「あはは…見下す、は言い過ぎだよ……」
「…これではティエリア・アーデを体よく追い出せないな」
「やはりそれが目的か、刹那・F・セイエイ……」
「ケンカは良くないな、少年二人!」
と、登場したのは金髪の教師、グラハム。後ろで苦笑しているのはビリーだ・
「ヨハン・トリニティとカティ・マネキンの時も思ったが……教師まで引っ張り出されたのか?全く……ヴェーダはどこまでやる気なのか…」
「さぁ?けど、僕まで引っ張り出すという所を見ると、どうにも本気のようですね」
そう言ったのは、舞台袖から姿を見せたリボンズである。他の四人と違って付き従う相手はいない。一人で立って、軽く笑っていた。
「……?従者は?」
「あぁ、僕の場合は従者じゃなくて職人が必要ですので。そちらに回ってもらってます。沙慈とルイス。けれど……多分、必要ないと思います」
言いながら、彼は舞台中央へと向かってくる。
丁度真ん中に立ったとき、ティエリアが呟いた。
「お前は蓬莱島に行く役か…では、未だに気絶している二人は?」
「ミハエルは子安貝の方だ。それから…」
「パトリックは仏の御石の鉢、だったか」
「ということは、グラハム先生は火鼠の皮衣ですか?」
「その通りだよ、アレルヤ君。では探しに行ってくる!」
「え、ちょ……速っ!?」
走り去るグラハムを全員が呆然と見送った。
『こうして各人に試練が与えられました。
各々、出来うる限りの力を持ってインチキを行ったり…騙されたりしますが、どれもどれも失敗し、結局、かぐや姫は嫁いでは行きませんでした』
『大分、はしょったわねぇ…』
『あ、スメラギさん。そうなんですよ、時間の都合上、全員の冒険をやる事は出来ないって言われました』
『へぇ……あら、マイクがまだオンよ。ってことはもしかして、この会話が会場に響いてるってこと?』
『あっ……し、失礼しましたー!』
「チッ……求婚者ども…どいつもこいつも根性のない…」
「刹那、黒いよ刹那!けどま……始めから三人リタイアだしね…」
「当然の成り行きだな」
『さて、こうして結婚を免れたかぐや姫でしたが、なんと評判が帝の耳に入り、娶りたいという旨が伝えられます』
使者はフェルトだった。
「……ダメ?」
「断る。だいたい本人が出向かずに使者に任せるなど…そこから気に入らないな」
「いや、相手は帝だし……」
帝は誰より高い位の持ち主である。そんな相手が自ら出向く、というのは……考えられないとまではいかないが、ほとんど有り得ないだろう。
「勅命なら行くしかないな、ティエリア・アーデ」
「君はどこまでも俺を消したいらしいな…」
「あぁ。その通りだが?」
バチバチと、両者の間に火花が散る。
フェルトはとりあえず、これではどうしようもないと悟った。
結婚の話ではなく、劇の方である。
『帝の使者は帰り、かぐや姫の意思を伝えました。
帝は考え、こっそりと覗きに行くことを決定します。見てみたいと、思ったのでした』
帝は誰なのだろうと……何となく予測は付くものの、ティエリアはぼんやりと考えていた。アレルヤと刹那はしばしの退場である。
少し眠気を感じ、早めに劇を切り上げたいと思っていた時に丁度、ひょこりと新しい登場人物が現れた。予想通りの人物が。
顔を上げ、ティエリアは苦笑した。
「やはり貴方か……ロックオン・ストラトス」
「おう。隣良いか?」
「構いません」
「んじゃ、遠慮無く」
腰を下ろしたロックオンは、しげしげとティエリアを見た。どこから入手したのかと学園所有者に問い詰めたい、十二単を着ているティエリアを。
「……似合うな」
「まさかとは思いますが…それは世辞ですか?」
「いや、事実」
そちらの方がタチが悪い。
溜息を吐くと、ロックオンは苦笑を浮かべた。
「悪い悪い。けど、お前さんも大変だよな……かぐや姫って…」
「五人の求婚者の方が大変そうでしたが」
「違いない」
二人は笑い合った。
『こうして、かぐや姫と帝は仲良くなりました』
『本当は違うけどね』
『スメラギさん!それ言ったら終わり!』
『いいじゃない。こういう原作と違うところが売りでしょ?』
『売りって……じゃなくて。
数年後、かぐや姫は月を見、思い悩むようになりました』
「月から迎えが来る?」
「あぁ。そういうことだ」
舞台にいるのはティエリア、刹那、アレルヤ、ロックオンの四人だけ。四人で輪になって座り、ティエリアの言葉に耳を傾けていた。
「俺は月の国の人間。そして、こちらにきたのは腐れ縁があったためだ」
「…そういう言い方すると、一気に情緒感が消えるな……」
ロックオンの言う通りで、だが台本という物が曖昧な劇には最初から『雰囲気』という大事な物が欠けており、彼の言うことが酷く今更であることは……言うまでもないだろう。
『そして、ついに月からの迎えが来ます』
「やっほー、ティエリア!迎えに来たわ」
「……貴方が月からの迎え、ですか」
「相応しいでしょ?」
そう言ってフフンと笑うのは途美学園所有者、ヴェーダ。隣にいるのはマリナとシーリン。この三人が、どうやら使者のようだ。
「さぁティエリア、この羽衣を着て、クスリを飲んで」
「薬をクスリとカタカナ表記にすると……少々、飲みづらさが出るのですが」
「気にしない気にしない」
「ティエリア!」
自信を呼ぶ声を耳にし、ティエリアが振り返るとそこにはアレルヤとロックオン、そして刹那の姿。
「……行っちゃうのかい?」
「………………………………俺に、拒否権があるとでも………?」
「………ごめん、訊いちゃいけないこと聞いたね…」
ちらりと視線がヴェーダの方へ行っていたのは、決して見間違いではないだろう。
「とにかく…頑張ってね」
「寂しくなるな…」
「…達者で」
三人の言葉に、劇とはいえ少しばかり感動を覚え……
「ん?離れたくないの?なら、あの三人も月に連れて行きましょうか」
ヴェーダの言葉に、四人は一斉に動きを止めた。
そんなあっさりと言って良いことなのか…?という疑惑の目を無視し「どうかしら?」「良いと思いますよ。刹那もいますし」「二人とも……彼らの気持ちという物は?」という月からの迎えたちの会話。
口を挟む間もなく決定したらしい。ヴェーダが、にこりと微笑んだ。
「じゃ、四人ほど連れてくわね」
『……こうして月に連れて行かれた四人は、それ以来も仲良く一緒に暮らし……って、こんなラストで良かったんですか!?』
『クリスティナ……仕方ないの。ヴェーダが介入を開始した時点で、これは来るべき未来だったのよ……そう、来るべき…』
※本物の『竹取物語』は、こんな物ではないです。
物凄くグダグダになりました……けれど、これも全てはヴェーダの台本のせいなのです。
後日談として、台本の話も書く予定なので…補完、というやつですね。
五人の貴公子には悪いことをしたなぁ、と思っています。特にハレルヤとミハエルとコーラサワー。本当にゴメン。