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「まいったよなぁ……」
自分が引き起こした惨劇の場に点々と生えている木。
それの一つの大きめな枝に、ミハエルの体を奪い取った『ソレ』が座っていた。
何故ここにいるかというと、それはタイミングの悪さ故である。
ここに集団でいた、ある程度は強いと自負していたらしい彼らを、いたぶって遊んでいたのは良いとしよう。ただ、時間を掛けすぎてしまったのだ。最後の一人、つまりは気絶していたあの貴族の元へ行こうとしたとき、近付いてくる気配を察知し……しかも、その三つの中にはアイツもいるようで、瞬間、自分の身の振り方は決まった。
出て行って殺すでもなく、自分がここにいるとバレることを覚悟で逃げるでもなく、ただ息を潜めて木の上で彼らが消えるのを待つ。大人しくさえしていれば、余程のことが無ければ気づかれない自信はあったから。
あの三人がいなくなるのを待っていたら、新しく二人の知らない誰かが来たのは、これは不幸という他ない。警戒するのが二グループに増えてしまった。どちらにバレてもいけない。片方が気づけばもう片方も気づく。
やはり、体の負担のことを気にせずに、広範囲に効力のある魔法か何かを使えば良かっただろうか。直ぐに殺しておけば、そして直ぐに立ち去っておけば、この状況は無かったかも知れない。まぁ……過ぎたことは、いくら嘆いても仕方がないのだが。過去を変えるなんてそんなの。
「普通じゃ、無理だよなぁ」
「何が無理なのさ」
「過去を変えること。あれって凄い……って、は?」
答えが返ってくるはずのない言葉に、応答があった。
思わず振り返ると、自分が座っている枝の、すぐ隣にある太い枝に立っている、よくよく知っている二人の姿があった。
「やぁ。いい加減、ミハエルから出て行ったら?」
「……」
普通の姿で微笑んで言う彼と、黙っている彼女。
彼女の方は、もしかしたら戸惑っているのかも知れない。彼女の方にはこのことを話したかという事に覚えがないから、教えられていないかも知れなかった。だが……少し、予想できるところは有ったようで、今はそれがあっているかを確認しようとしているらしい。よい心がけだ。
「ハレルヤと合流しようと思って来てみて、まさか君と出会うなんてね……どうりで症状進行が速いと思ったよ……なるほど、君が好き勝手してたせい、か。眠っといてって言ったのに、どうして我慢しきれなかったのかな……」
「いいだろ別に。俺……いや、僕は起きたいって元から言っていたんだ。それを実行した……そして、実行するだけ。違う?間違ってないでしょう?』
間違っているはずがない。自分は起きなければいけないのだから。出来うる限り、速く、速く。こんな、半分寝ているような状況から抜け出て。
それを知らないワケがなく、彼は、ハァと溜息を吐いた。
「それでも、こっちの事情を考えて欲しかったよ」
『知るわけ無いよ。だから、僕は僕のやりたいようにやる……そういうことだから』
もはや、ミハエルの口から漏れるのは彼の声ではなく、自分の声。完全に『彼』という存在を消し去る第一歩。少しずつ、この体を自分の物としていくための。そうしてそうやって、始めて自分はこのヒトと互角に戦える。
『取り込み中で悪いんだけど、僕の相手をしてくれない?』
立ち上がって笑う自分の手には、紅い液体が付いたナイフが握られていた。
眠らされる、ということはもう、どうでも良い。
自分が活動していると知られた以上、とにかく、なりふり構わず誰かを殺そう。