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タイトル通り、暗いお話となります。あしからず。
多分…普段よりは暗い、ハズ。
05.割れた鏡
(何だ……ここは)
見慣れているはずの風景が、メチャクチャになっていた。
今は夕方。室内は明るいはずだが、きっちりと引かれたカーテンで光は遮られている。
二つ置かれていた椅子は足が折られ、腰掛ける場所が割れ、背もたれも離ればなれになっていた。二度と、使い物にはならないだろう。気に入っている……と言ったのは誰だっただろうか。
ベッドは、使えない程ではなかった。ただし、無惨に裂かれたシーツ、綿が出ている枕、散乱する布きれ、丁度真ん中に刺さっているナイフなど、そういう物に頓着しないのならば。ナイフは引き抜けばいいだろうが、他はどうしようもない。新しく買い換えるか、修理……は無理、か。
スタンドライトは、粉々だった。ガラス製品だったのも理由だろうが、それを差し引いてもこれは異常。落とした物を再び拾って、力一杯床に投げつけて……それの、繰り返しがあったのだと、容易に想像が付く。
見るに堪えない部屋の様子。
だが、一番目に止まるのはそれらではなかった。
鏡、である。
この部屋に一枚だけ有った鏡が、割られていた。
スタンドライトは粉々だった。
しかし、鏡は。
まるでそれは
鏡の存在すらを消そうとするかの様に
異常ではなく、いっそ神聖とも言えるほど
ただ、それにだけ意識を集中していて
一瞬だけ、この場所の『非日常』を忘れてしまうほど
見とれて、しまって
我に返った時には、彼もこちらに気付いて行動を中断していた。
「お帰りなさい」
いつものような微笑みを浮かべ、こちらに顔を向ける彼は。
どこか、大切な何かが抜け落ちているような感じがした。
異常なのにどこか正常に見えるという事実に困惑しつつ、何かを言おうと頭を巡らせて、何も言えないことに驚愕する。ただいま、とでも言えばいい。何をしているんだ、とでも問い詰めればいい。いくらでも言えること、言うべきことはあるというのに、どれもこの場にはそぐわないように思える。
いや……状況に合う言葉が見つからないワケではないのだろう。
無いのだ。そんな物は。
(だから、俺はここで立っているしかない)
「……どうかした?」
何も言わない自分を訝しく思ったのだろう。彼は首をかしげた。
それでも口を開かないでいると、溜息を吐いて、再び微笑む。
「悪いけれど……一人に」
一人にして欲しいと言われたが、動こいてはいけない気がした。一人にしてはいけない気が。それをしてしまえば、何か取り返しの付かない事が起こりそうな、嫌な予感。
しばらくこちらを向いていた彼だったが、微動だにしない自分に諦めたらしい。鏡に意識を向けたようだった。
再び行為を開始した彼を眺めている内に、何かを呟いていることに気付いた。
「…いらない……」
いらない、いらない、と。
ただ、それだけを繰り返す彼。
「いらない……居ない鏡なんて……いらない…」
ただ、それだけを繰り返して。
ずっと鏡に向かい合う彼は、どこか迷子の子供のようだった。
ねぇ、君はどこにいるの?
……病んでる気が。もちろん部屋の中にいた人は某、橙の子ですよ。
25直後みたいな感じですね…詳しいことは分からないけど。
相手の人は、誰とでも。