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続きです。
~トリニティの長男編~
(……次に回すのは引っ越してきた家か)
回覧板に付いている回す順番を確認して、ヨハンは家を出た。
すぐ隣に人が入る前までは、その隣のクロスロード家に届けていた。住んでいる姉弟はとても人当たりが良く、しばしば玄関先で喋ったりもしていたのだが……果たして、今日始めて出会う彼らはどうだろうか。
挨拶に来たというこの家の住人のことは、応対に出たミハエルから聞いた。といっても一言。気に入らない、だそうだ。
そのことに少々不安になりながらも、玄関のインターホンを押そうと手を伸ばす。
「ん?うちに何か用か?」
と、その時、後ろから知らない声がした。
振り返ればそこには茶髪の男性の姿。ラフな私服に、歩きやすそうな靴。散歩にでも行っていた…というところだろうか。
それよりも。
「『うち』ということは、貴方はここの?」
「おう。ロックオンって言うんだが…アンタは?」
「私はヨハン・トリニティです。隣に住んでいる」
「あぁ……」
納得した様子の彼は、しかしすぐに心配そうな表情を浮かべ、口を開いた。
「なぁ……ハレルヤと刹那…挨拶に行ったヤツら、何かやらかして無い…よな?」
「私はその時、仕事で家を空けていましたので何とも言えませんが……」
ミハエルが『気にくわない』と言っていたことは秘密にしておこう。
当初の目的……つまり、回覧板を渡しながら言う。
「貴方も……どうやら苦労しているようですね」
「ってことは、アンタも?」
「えぇ…弟と妹がそれはもう厄介事に首を突っ込むタチでして…」
「あー、俺の家もそんな感じだな…兄弟ゲンカなんてしょっちゅうだぜ…」
「……お互い、頑張りましょうか」
「だな……」
短い時間の邂逅であったが、ヨハンとロックオンの間には妙な連帯感が生まれていた。
(2008/08/03)
~トリニティの次男編~
ミハエルは不機嫌だった。
理由は昨日の晩の事。引っ越してきたという二人からの挨拶の事だった。小さい方はいいのだが、もう一人が気に入らない。少し話してすぐに、馬が合わないと分かった。それは相手も同じだったので、もしかしたら同族嫌悪……いやいや、まさかそんな。あんなのと同族なのは死んでもゴメンである。
というわけで不機嫌なのだが、それでも自分に割り当てられた仕事……つまり夕飯の買い物はキチンとやらなければならない。どんなに家でふて寝をしていたくとも、サボってしまえば夕食はないのだ。
イライラとしながらも、買うべき品は正確に籠に入れていく。
そしてトマトに手を伸ばしたところで……手が、ぶつかった。
誰だ?と顔を上げると、そこには先ほどからの苛立ちの対象……の、鏡映しの様な青年がいた。髪の分け目から瞳の色まで、ついでに言うと雰囲気までもが真逆。
「あ……その、ごめんなさい…僕、こっちのトマトを取りますから…」
しかも正確まで反対の様。ここまでくると驚きよりも好奇心、というか興味がむくむくと鎌首をもたげてくるのだが。
「いいって。俺がそっちを取るから」
「僕が取りますって」
「俺が取る」
「……分かりました。えっと……誰さんですか?」
その言葉にようやく、自己紹介をしていなかったと思い出す。
「俺はミハエル・トリニティ。多分、アンタんとこの隣。そっくりな兄弟とかいるだろ?」
「いますよ。双子でハレルヤっていいます。僕はアレルヤ。よろしく、ミハエルさん」
「『さん』は止めろって。呼び捨てでいい。あと敬語もいらねぇから」
見た目からして、恐らく彼の方が年上だろう。
なのに敬語を使われるのは、酷く不自然というか何というか。つまりはそういうことである。だいたい同年代の仲間にも『さん』付けで呼ばれたことはない。むず痒いワケだった。
「じゃあ……ミハエル、だね。改めて、これからよろしく」
「おう。お前となら近所付き合いしてやってもいいぜ」
弟の方はゴメンだけどな。
冗談めかして(わりと本気だが)そう言うと、彼はクスリと笑った。
(2008/08/03)
~トリニティの末っ子編~
ネーナは悩んでいた。
それはもう真剣に。
「あの二人……どこかで見たことがある気がするのよね……」
誰に言うでもなく、呟く。
あの二人、というのは勿論、つい前日に引っ越してきたと挨拶をしてきた、小さいのと大きいののコンビのことである。どちらも顔は整っていて、スタイルも良かった……というのは置いておいて。
絶対に、どこかで見たことがあるのだ。
「どこだったかな……」
いくら首をかしげたところで、答えが降ってくるわけでもない。忘れているのなら、思い出せない物はいくら頑張っても思い出せないのだから。
ならば、とネーナは部屋に転がっていたHAROを抱き上げた。
「ねぇ、あの小さい子が誰だか分かんない?」
「知ンネーヨ!知ンネーヨ!」
だが、返ってきたのはこんな言葉。
予測はしていたので、溜息を吐くだけに止める。場合によっては蹴りつけて投げ飛ばす、ということくらいは簡単に実行する。ただ、投げ飛ばすというのは加減が必要だ。以前、あまりに強く投げすぎたせいで、ぶつかった壁が凹んでしまったことは……まだまだ、記憶に新しい。
「んー……私が見てるものといったら…雑誌とか?」
それなら、可能性はあるかもしれない。ちょっとしたアンケートでも、顔は出ることがある。もしかしたら、そう言うときに見たのかも。
さっそくネーナは家に置きっぱなし、古紙回収に出すのが面倒だと放置していた雑誌たちと向かいあった。
(2008/08/03)
~マネージャーの来訪~
高校登校初日。久しぶりの学校に疲れた……と思いながら帰り、リビングに足を踏み入れてみれば。
「あ、刹那。おかえりなさい。学校どうだった?」
にこやかに微笑むアレルヤと、
「刹那、その制服に合うわね」
ニコリと笑うマリナがいた。
アレルヤの方は分かる。何故なら彼もこの家のメンバーの一員で、むしろいなければならない人間なのだから。彼がいなくなると家事全般が滞る。何より癒しが無くなる。
だが、マリナの方は……理由がない。
「マリナ・イスマイール、しばらく仕事は入っていないはずだが」
「えぇ。だけど貴方と新しい家が気になったから来てみたの。いい家ね、広いし」
どうやら、楽しそうに言う彼女の言葉に嘘はないようだ。
ホッとしたのも束の間、ドタバタという騒々しい音が耳に届く。
それから、ギャーギャーという声。
「まだ誰か来ているのか…」
「ソーマちゃんが来てるんだ。この調子だとハレルヤとケンカ中かな…僕、止めてくるね」
待て、というまでもなかった。
去っていく彼の背中を刹那は呆然と見つめた。何と言うことを。自分がマリナをどれほど苦手としているかくらい分かっているだろうに。これが新手のイジメというなら対応のしようもあるのだが、天然故であるから手に負えなかった。
溜息を吐いて、マリナの真正面のソファーに腰掛ける。
「……次の仕事は何時だ?」
「一ヶ月後ね。とあるブランド新作の洋服が出るらしいわ」
「面倒だな……」
「あら。頑張って仕事しないと、ガンプラ代が出ないわよ?」
言われて、黙り込む。少しばかり気に入らないその仕事を続けているのは、他でもないガンダムのためだった。もちろん給料のほとんどは生活費に回していて、貯金もしている。が、その他は専らガンプラのために使っていた。
ふふっとマリナが笑う。
「本当に頑張ってね、売れっ子モデルの刹那君?」
……この笑顔には、(嫌な意味で)一生勝てないのだろうと感じた。
(2008/09/07)
~担当の来訪~
……大人しくしているのも限界だった。
「だぁぁぁぁッ!やってられっか!」
がたっと音を立てて椅子から立ち上がり、さきほどから無言の重圧を掛けてくる相手……ソーマを睨みつけた。
だがしかし彼女は答えた風でもなく、勝手に自分のベッドに座っているまま、ペラリペラリと本の頁を捲っていた。こちらにほとんど全く注意を払っていないと、態度でハッキリと示している。
「煩いですよ、ハレルヤ。叫ぶ時間があったら机に向かって原稿を仕上げてください」
「煩せぇなッ!だいたい締め切りは二週間後だろーが!何でテメェは催促しに来てんだよ!あと一週間もあればこっちで何とか出来るっての!」
「何故来たか?…決まっています。単なるイヤガラセです」
やっぱりだった。
「テメェはそんなに暇人なのか!?」
「暇ではないですね。限られた時間を駆使して、こうしてここにいるだけです」
「……じゃあ、暇な時間ってどんだけあるんだよ」
「二週間くらいは」
「暇人じゃねぇか!」
というか二週間……もしかして、締め切りの日までずっと通い続けるつもりだろうか………有り得そうだ。ぞっとしない話である。
何か言ってやろうと口を開いたとき、丁度部屋の扉が開いた。
「ハレルヤ、ソーマちゃん……入るよ?」
そこにいたのはアレルヤだった。
ぱたんと後ろ手で扉を閉めた片割れは、苦笑しながらソーマの隣に座った。それはつまり自分のベッドの上に座ったと言うことだが、あの憎々しい担当と違って片割れならば許せるので不思議な話…いや、不思議でもないか。何故なら彼は片割れだから。理由はそれだけで十分だろう。
「プロの小説家書きさんは大変だね…小説の方は進んでる?」
「進むも何も、その女の妨害にあってどーしようもねぇよ」
「女じゃないです。私はソーマ・ピーリスというちゃんとした名前が…」
「あー、はいはい」
ソーマの言葉は適当に切って、再び机に向かう。
アレルヤがいるというそれだけで、やる気が出る自分はかなり単純だと思いながら。
(2008/09/07)
~招かれざる者の来訪~
「何だか騒々しいですが……」
「気にすんなって。刹那のとこには姫さんが来てるだろ?それにハレルヤのとこにはソーマがいるからな……そっちにアレルヤは行ったんじゃねぇか?刹那んとこと違って、あっちは中和剤が必要だ。いなかったらケンカ発動だしな…」
「アレルヤがそちらに向かっただけ、まだマシな方だとでも言うのですか?……いや、その通りだが……ならば気にしないことにしましょう。ですが……」
ぱたんと本を閉じて、ティエリアはロックオンを見た。いつの間にか自分の部屋にいて、そのまま居着いてしまった彼を。
「何故、貴方はここにいるんですか」
「気にすんなって」
「いえ、これは気にさせていただきます」
というか、本当にいつの間に彼はこの部屋に入ったのだろう。なんで彼がここにいるかよりは、そちらの方が若干ほど気になっているのだが。気配を消してコッソリだとか、すでにそういうレベルは超えているような感じだ。
まぁ……どうであれお呼びでないのは事実である。
はぁ、と溜息を吐いた。
「自分の部屋はどうしたんです?」
「まだ段ボールに占領されてる。だからこっちに来たんだよ」
「…早急に片付けてください」
ほんの少し、呆れを感じた。
…かく言うティエリアも、部屋の片隅に段ボール箱の山がひっそりと、しかし確かに存在を示しているのだが……こういうことは自分を棚に上げないと言えないので、見えても見えないフリをする方向でいく。
「だいたい、貴方の相棒のハロはどうなったんですか?段ボールの中で寂しく貴方を待っているのでは?」
「うっ……」
図星らしかった。
「…どうりで静かだと思いましたよ」
「ってもなぁ……あの山見て、やる気起きるヤツなんているのか?」
「……そこを言ってはお終いでしょう」
(2008/09/07)