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突然現れた殺意と敵意を感じ取り、ハレルヤは素速く顔を上げた。
視線の先には葉が多い茂る木、そして、そこから落ちるように飛び出た二つの影。
それは、長髪黒衣の姿になったアレルヤと、ミハエル。
片割れの長い髪は揺れ、手にした長剣は真っ赤なナイフに受け止められ、そのままの態勢で重量に従い二人は地面に着地した。
対峙している黒と青は、素速く間合いを取って身構える。
敵意を持つのはアレルヤ。殺意を持つのはミハエル……否、おそらく体はそうであっても意思は彼の物ではなく、『アレ』に乗っ取られているのだろう。
「あれは……ミハエル・トリニティ?」
「おいチビ、そこの貴族見張っとけ。それからナマイキ女も見とけよ。変なことしようとしたら止めろ。いいな」
状況を飲み込めていないらしい刹那を置いて、ハレルヤは二人の元へと向かおうとし……止まらなければならないことを、悟った。
それはアレルヤも同様だったらしく、驚きに目を開いている。
辺りに散らばっていた様々な刃物が浮き、切っ先が片割れに、自分に、刹那に、ネーナに、気配で分かったが木の上にいるソーマに、アレの敵となっていると認知されている者全てに向けられていた。葉の間から差す太陽の光が刃に反射しこの、惨劇があった場所を奇妙なまでに明るく照らしている。
いつの間に、ではない。一瞬でこの状況は作り上げられた。ハレルヤにも、どうやらアレルヤにも力を使うと気づかれずにここまで出来たというのは……間違いなく、使用されているミハエルの力は、アレの手によって補強されている。実に、やっかいなことに。
『動いたヤツから刺す。動かなかったら……気分で刺す順番は決める』
暗く静かな声が広がる。
どうやら……本気らしい。
(ハレルヤ……どうしよう、これは……)
(俺に訊くな。俺の方が知りてぇんだよ…)
(ほんの少しでも動きを見せたら……だね。僕らだけ、なら良かったんだけど…)
頭の中に響く声に答えながら、全くその通りだと賛同する。
自分たちだけでもこれは危険な状況だというのに、人間の刹那、ショックを受けたままのネーナ、あと、どうでも良いがどこかの貴族。ソーマは裂け目を作って逃げることが、あるいは可能かも知れないが……他の彼らは。
というか、ロックオンは一体どこへ行ったのだろうか。彼と入れ替わるようにいるソーマも、気にならなくはない。後で問い詰めよう。
彼には勘づかれないようにコッソリと考え、決定する。分からないままというのは気に入らないのだ。
(……で、俺たちが打てる手は)
(無い……んじゃないのかな…)
何かをしようとすれば、アレは直ぐに気づいて刺す。自分たちでなく、他の誰かを。自分たち双子が、自らが傷つくことも厭わずに行動を起こすことくらい、アレはよく知っているだろう。
(けど……何もしなかったら、誰かが刺される。何をしたらいいのか分からないけど、何かをしないといけない…)
(同感。どっちにしろ刺されんなら、こっちから出てくか?)
(不確定要素がある以上、それはあまり…)
つまるところ、打つ手は完全に無いと言うことか。
打つ手が有ったとしても、自分たちには出来ることでは無いのだろう。
そう冷静に分析していると。
一発の、銃声が。