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「ネーナ、力の方は」
「使えなくはないけど……せいぜい、たき火程度。アンタはどうなのよ」
「全くダメですね。魔族であろうと、使用する力は基本的に異端と同様ですから」
相手の待つ場所へ向かい、答えながら思う。ソーマ自身は見ていないが、アレルヤがネーナに与えたという『お守り』。その効力は行動を可能にする。だが、能力までに手は回らなかったようだ。行動についてだけでも充分素晴らしい結果ではあるが。
……刹那が隠していたあの異端に対する能力。実は、出会った頃から知っていた。何らかの力があると気づいたのはハレルヤで、少しだけ調べたら発覚した。黙ってやったことは申し訳なく思うが、それが対策を立てるにおいて役に立っているので、できれば気にしないで欲しい。彼はこういうことには無頓着な気がするから、大丈夫だとは思うが…やはり、後で謝るべきだろうか。
「ねぇ……そういえばさ、二つじゃなくて四つに分かれるって言ってたよね」
「『ひと』の事ですか?えぇ、大雑把に言わなければ、そうですけれど」
「異端と魔族とそれから…月代、だっけ?何が違うの?」
「あぁ、それですか」
その事なら、話してしまっても構わないだろう。魔族と、月代と、どちらとも無関係な異端や人間でも、知っていることがある事柄だ。まぁ……そういう人ビトはおおよそがご老人という年頃、だったりするのだが…もちろん希に若いのもいる。
「始めに、大前提として人間と異端が存在します」
「そこが前提なんだ」
「はい。そして、魔族というのは正確には異端に分類され難い存在です」
「ていうと?」
「魔族は、人間の亜種ですから」
「……は?」
ポカンとした表情で、足を止めるネーナ。
そんな彼女に歩くよう促して、ソーマは続きを口にした。
「突然変異、というべきでしょうか。けれど、変わってしまった後は確実に人間とは呼べない存在。人間以外を異端と定義するなら……というか、それが一般の定義ですけど…とにかく、そうするなら、私たちも異端ではあります。もしかしたら、ですが……刹那は魔族になり損ねた人間、かもしれないですね」
「突然、人からそれ以外になるの…?」
「そういうことですね。もちろん魔族同士で結婚すれば、魔族の子供が生まれますが」
では、と早足に話を進める。
自分がどうなのか、訊かれる前に。
「月代は、魔族と対になります。といってもこちらは突然変異ではなく……自然発生、ですね。私たちという存在がいると、バランスが崩れます。全ては対。人間と異端が対であるように、魔族と月代は対。世界が、世界の均衡を崩さないために生み出した種族」
「……で、どうしてそんなのがあそこにいるの?」
「目的は知っています。単なる狩人たちの遠征ならば話は簡単だったのですが……月代が関わっているとなると、話は別であると確信せざるをえません。目的を達成させて、わざわざバランスを崩そうとしているとしか思えない」
あるいは、別の何かもあるのかもしれなく、それが一番の目的かも知れないが……そこは知りようもないこと。この場合は、魔王を殺しに来たと考える方が、間違いを犯す可能性が減るだろう。
魔王は魔族の王。王とはすなわち、その種族の代表。その存在一つが、種族を表していると言っても過言ではない。それほどの重大なピース。もしもそれが取り除かれれば、月代との均衡が崩れる。
わざとそういう事をして、崩れた世界の先を見ようとしている者がいるのは知っている。だが、そんな彼らに残念なお知らせがある。
傭兵の男と向かい合って立ち止まり、ソーマは薄く笑った。
———残念ですが『魔王』なんてもの、どこにもいません。