お題：銀 14.進まない時計

世界を構成するにおいて、何よりも忘れてはならないのは、


時。

---

14．進まない時計



「……で、貴様はどうしてここにいる？」

　どうして、と言われても……と困る。

　ここにいるからいる、としか言い様がないのだが…。

　……それで彼が納得してくれるかというと、確実にそうではないだろう。

　少々、イライラとしている様子でもあるし。

　来てしまったのは失敗かも知れないが。

　こればかりは自分の力ではどうしようもないので諦めよう。

「フン……まぁいい。それよりも、いつまで立っているつもりだ？」

　彼は言いながら、視線でおいてあった椅子を示した。座れということだろう。

　普通に座って良いよ、などと言えばいいと思うのだが……。

　彼らは相方に似るのだろうか、やはり。

　だとしたら、この態度にも酷く得心がいく。

　言葉と裏腹な思いを持つのは、全くもって『彼』と同じ。

　座りながら、時計が其処にあるのに気がついた。

　針は動かない。どうやら壊れて……否、壊されているようだ。

　そして彼は、これを見てもどうやら何とも思っていないところをみると。

　どうやら、実行したのは彼らしい。

　何故だろうかと考えて、答えではないかも知れないが一つ、案を浮かべた。

　思い通りに動かない時など…世界など必要ない、ということを。

　それは有り得そうな話ではある。

　計画遂行を最も望んでいるのは、彼らのペアだろうから。

　あの時計が、再び動き出すことはあるのだろうか？

　有るかも知れない、としか今は言えないのだろう。

　全ては、これからの自分たちの行動の如何によるのだから。

　彼らの思うような世界に出来たときに、きっと再び。

　ということは……アレルヤ達に課せられた義務はとても重いような…。

　しかもそれが世界による重責ではなく、同僚から与えられた責務というのが…。

　完璧主義者に、同僚への介入を容易く行う彼。

　組んだらこれほど怖い物は無い……かもしれなかった。

　あるいは……お似合いかも、と考える。

　それぞれ、他の誰かと組んだら、お互いの能力を最大限に使えなかったかも。

　上も、なかなか組み合わせについては考えているようだ。

　感心していると、彼は不思議そうな顔をしていた。

　どこから用意したのか、カップを自分に渡しながら首をかしげる。

「何を一人で分かったような顔をしている？」

　何でもない、と答えてカップを受け取り、一口。

　紅茶だった。しかも美味しい。

　さすがは完璧主義者の相方……。

　そう思いながら、チラリと、また時計を見た。

　壊れた時計の針は、相も変わらず動いていない。

　動く日は、来るのだろうか？

　有るかも知れないとしか、言い様はない。

　それは自分たち次第であり、同時に……受け入れるかどうか、という。

　…彼らの、想い次第でもあるのだから。

　アレルヤは、もう一口紅茶を飲んだ。

---

出来れば動く日が来て欲しい。こんな、今の世界でも動くように。



今回は分かり易いような、難いような…ヴァーチェあるいはナドレですね。どっちの名前でも同じですよね……けど、こういうときに困るのですよ。