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「お前は、戦わないのか?」
「そういう貴方こそ。行動を起こそうとは?」
対峙するティエリアと敵は、そのままの状態でいた。自分同様、彼にも動こうという考えはないようだ。その様子を見るだけで、彼の得意とする分野が分かってこようもの。おそらく、頭で考える方。実戦も並以上には出来そうだが……多分、思考の方が得意なタイプだ。
「俺は頭の方の担当だからな。動くのは他のに任せる」
「奇遇ですね。僕もですよ」
やっぱりだった。
あまりに予想通り過ぎて、ティエリアは呆れた。他人のことをとやかく言える立場では無いのだろうがそれはそれ。自分を棚に上げてこそ、相手を批評できるというものである。……まぁ、彼の場合、月代としての能力を封じられたも同然なので、それも理由として含まれるのだろうが。
月代は相手の力を、そっくりそのまま『コピー』する。力の内容だけでなく、性質もまた同様に。つまり、異端の力をコピーすればそれは『異端の力』であり、そのために刹那の『異端の力を封じる能力』の前に使用不可能になって当然なのである。
まぁ……相手の都合がどうであろうと構わない。相手が力を使わないというのなら。ティエリアに与えられたのは、『魔』に対しての力だけなのだから。『聖』に対し、この力は通用しない。
「で?会話を続けているということは、まだ訊きたいことでもあるのですか?」
「その通りだ。話が早くて助かるな」
「答えるかは分かりませんが、一応なら聞きましょう」
「狩人が全滅しているらしいな」
言った後でいきなりすぎたかと考えたが、このくらいで丁度良いと思いなおす。あまり遠回しに言うのはティエリアの好みではない。話がややこしくなる。シンプルであるほうが、事は上手く進む物だ。
「えぇ。こちらの血の海とは、全滅後の状態は少々違った様子ですけど」
「燃やされていた。違うか?」
「…何故、知っているんです?」
「俺が知った理由はどうでもいい。訊きたいのは一つ。お前は燃やされて死んだ狩人のことを今、どれほど思い出せる?」
「何を突然、」
「いいから教えろ」
訝しげな表情を浮かべる相手を無視して、答えを促す。返答次第では、早急に対策を考えなければならないだろう。敵に対してでなく、味方に……しかも、身内とも呼べる存在に対しての。これ以上やらかされないうちに。
「僕の記憶力を舐めないで欲しいですね。そのくらい、全員思い……」
「思い出せる、か?では、何故、君は固まっている?思い…出せないのではないか?」
「……貴方は、どうやら原因を知っているようですね」
すっと、相手の目が細められた。警戒のサイン。当然の反応だろう。自分の知らないことを、相手が知っている。たったそれだけ、しかしそれが致命傷となる恐れもあるのだ。
だが、そんな相手に構っている場合ではなくなった。彼の言うことが真実なら(様子からして間違いなく真実だろう)、事は収集を付けにくくなっている。本当に思い出せなくなっているのなら、それは普通の異端による物ではない。
燃やしたモノ、その存在を徐々に消していく炎。
それを扱えるのは、知っている限りでは二人だけだった。
しかし、今はそれは置いておく。当人たちがいない以上、問い詰めることも出来ない。
変わりに、ティエリアは一つの提案を出した。速く彼らの元へと行くための。
「君たちの目的が『魔王』にあることは、予想が付いている。…残念なことにソレは存在しないが。そこで一つの提案だ。人質を返すかわりに、今回は引き上げてもらいたい」
見れば、傭兵相手に少女二人は押されている様子。
能力をほとんど封じられている以上、数で勝っていても仕方のないことだった。