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「さて……どこに行ったらいいのかな…」
黒衣長髪の姿からいつも通りの姿に戻り、ぐるりと辺りを見渡してみても、あるのは壁と通路と数え切れない扉だけ。
これら扉の繋がる場所、それの一つに二人がいることは分かる。ただ、二人一緒にいるのか、それとも離れてしまっているのか……それだけで事は大きく変わる。この場所は『自分の領域』な上に双子だから、ここでは意識を凝らせば片割れの方は大まかな一を把握できる。だが、狩人の彼の方は違う。昨日会ったばかりで、未だに漠然としか気配を覚えることが出来ていない。
だから、二人が離れていると困るのだ。手当たり次第に扉を開いて、中を覗いて探していかなければいけない。それでは時間が足りないかも知れなかった。変な物、が入っているらしいから。
変な物と言っても、どんな物かは曖昧だ。ただ、世界の歪み、それに類する物だということは知っている。しかし裏を返せば、それ以外は分からないと言うことだ。相手が何なのか、そもそも相手は物体として存在しているのか、そんなことすら分からない以上、手のうち様はどこにもなかった。
「まぁ、危ない物なんだろうな……ってことは分かるんだけど。確定情報がこれだけっていうのは心細いなぁ…」
溜息を吐きながら、片割れがいるであろう方向へと足を進める。まずは把握できている方から。確実な方から、一つ一つ解決していくのが現状ではベストだろう。
一緒にいてくれたら、本当に手間が省けるんだけど……なんて考えながら歩き続け、一つの扉の前で足を止めた。
そこには、幾つもの鍵が掛けられていたのだ。
「コレ……どうしたんだろ…」
考えられる原因は二つ。どうしても思い出したくない記憶へと続く扉なのか、奪われたか閉じられたかしている記憶の中への入り口なのか。あるいは両方、ということもあるだろうが……片方だけでも充分事足りるのだから、そんなことは滅多にない。考えの外に出しても良いハズだ。
では、一体どちらなのか。
考えたところで自らの記憶である以上は知りようもなく、諦めて通り過ぎようとして、扉には鍵が三つ付いていることに気がついた。
何て厳重な、と思いながら眺め、縦に並ぶ三つのうちの真ん中の鍵に触れる。それの鍵は、既に外れていた。何か、思い出すキッカケでもあったのだろうか。
ちなみに上と下の二つは、しっかりと鍵が掛かったままである。
どんな記憶に続いているのかと興味がある反面、何が出てくるだろうと恐ろしくも感じる。思い出したくないか、思い出せないか。前者だったら辛い過去の場合が多く、後者だったら重大なことが多い。どちらにしろ、誰かにとって重要な意味を持つ記憶なのだ。
とりあえず、片割れに会ったら心当たりを訊いてるべきだろうか。そう思い、体の向きを変え……膝が、ガクリと折れた。
突然のことに驚きながらも床に手をつき、顔面と床が出会うような事態は避ける。
「えっと……うん、何となく理由は分かるけど…」
思わず苦笑がこぼれた。
あまり好みでないあの力を使うと、大きな代償がある上に、大きな負担が体に掛かる。抑えきれなくなった力が溢れ出て、触れている物に影響を与えることもあるが…それはそれ。今回のは二番目にあげた事柄が原因だろう。
やはり、ソーマに言われたとおり。四回も使うとかなり辛い。さらにその上、引き離していた暗い部分の感情、その塊とも言える存在に帰ってきてもらったばかりである。身重になった分だけ、負担も大きくなっているようだ。
壁に寄りかかりながらゆっくりと立ち上がり、移動を再開する。
歩いている内に、きっと調子もある程度は戻るだろう。