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目の前の景色が変わる。
そこは、薄暗い部屋。
「新しい場面へご招待ってか…?」
「ハレルヤ、ここは……」
「アイツが一番思い出したくねぇだろう事柄、それに深く関わる場所だ」
思い出したくない。それが、一番のキーワードなのだろう。
思い出したくないというのは、つまりそれは背負えきれない過去の記憶。だからこそ、思い出したくはない、逃げたい対象。出来るならば忘れてしまいたい過去。
自分にとっての『あの日』のように。
部屋を見渡してみれば、そこはある程度の広さのある場所。元は客間の一つだったのだろうが、しかし今はそうではないと、占められたカーテンが雄弁に物語っている。隙間から零れる赤っぽい光から、今は夕方であると推測された。
「何が始まるんだ?」
「見てりゃ分かるだろ。分かりたくなくてもな……つっても、俺も見るのは初めてだよ」
自嘲気味にハレルヤは笑う。何があったかは知っているのに、何が起こっていたのかを知らない。事実を知っていても中身を見ていない故の矛盾。そんな自分を嘲るような、責めるような風に、彼は笑った。
そんな過去を、自分が見て良いのだろうかと、ロックオンは思った。それはどんなに暗い物であれ、彼らにとっては重大な意味を持つ物だ。自分が、第三者の自分がそれを見て良いのだろうかと……そう、不安に思う。
しかし、見なければいけないとも思う。興味のためではなく、まるでこれは……そう、義務感。どうして感じるかは分からないが、確かにそれは自らのうちに存在していた。存在して、背中を押していた。知れと。
その理由は考えても思い出せない物なのだろう。漠然と、それは理解していた。なら仕方がない。黙って素直に感情に押されて、彼らのためになる何かを為せばいい。きっと彼の過去を共有することも、何らかの効果をもら足すだろう。それが良い物であれ悪い物であれ、変化は変化を呼ぶ。悪い物が良い物に変わる可能性だってあるのだ。ならば、その可能性に掛けてみるのも悪くない。
「ハレルヤ、お前は大丈夫なのか?」
「何がだよ」
「アレルヤが大変な目にあうんだろ?それを、お前は見てられるのかって訊いてんだ」
「見くびるなよ、狩人。俺には知る義務があんだ。逃げようなんて事はしねぇ」
挑発的に睨みつけてくる彼に、これなら大丈夫かと安心する。話を聞く限りではとても辛い記憶のようで、それを双子の片割れである彼に直視する事が出来るかと、少々心配していたのだ。彼にとって、片割れの痛みは自分の痛みの何倍にもなって訪れる、そんな物なのだろうから。
それでも見ようとする彼は、やはり強い。素直にそう感じた。
逃げることだって出来るだろう。目を閉じればいい、耳を塞げばいい。そうすれば見えないし聞こえない。それを選択することだって出来る。なのにそれを選ばないのはプライドもあるだろうが、彼の片割れに対する感情があるから。
「にしても……義務、ねぇ」
「俺たちは二人で一人だ。だから、アイツが受けた痛みは、俺の痛みでもある。なのにアイツときたら……痛みを感じるのは自分だけで良いって顔してやがる。そっちのほうが見てて辛いんだって、何度言えば分かるのやら…」
「分かっても、アレルヤは何も変えないと思うがな」
「違いねぇ」
そう言って笑い合っていると、部屋の入り口が開いた。
入ってきたのは一人の男と、一人の少年…小さなアレルヤ、だった。