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『シャキッと歩け!』
『……』
『返事はどうした!?』
『はい……』
腕を掴まれ半ば引き摺られるように部屋に入る片割れを認め、ハレルヤの手に自然と力がこもる。そう、全てはこれから。悪夢のような時間の始まり。自分が知っていながら知り得なかった、そんな出来事の開幕。そう考えれば、何も思わないということが有るはずもなかった。
始まりは引き取られたあの日……いや、あの施設に入れられた……否、入ることを選んだ自分たちの決定だったろうが、ここで流れた過程は確実に、今の自分たちの有り様に大きな影響を与えている。
ティエリアは身動きの取れない時を嫌い、アレルヤは変化を恐れるようになった。
ならばハレルヤ自身は……そう問われると、良く分からないと言うのが正しいだろうか。自分は片割れが幸せならばそれで良い。だから穏やかな停滞は嫌いではないし、前をしっかり見据えて進んでもらえれば言うことはない。たとえ先に何が起ころうと、そうすることに意義はあるのだ。
憎々しい思いしか抱かない自分たちの引き取り手を睨み、そんな男が扉を閉めるのを見る。あの扉の向こう側に、もう少しすれば自分がやってくる。あの男がやりすぎるようなら、殺してでも止めるために。たとえアレルヤの意思に反していようと、必要と有れば行う準備は出来ていたのだ。準備をしなくても殺すことは出来ただろうが、あまり力は使いたくなかったから。
「明かりも点けないで何を……っても、何となく予想は付いたけどな」
「ふぅん。俺の場合は、一目瞭然って言えるのは事情を知っているからだが……テメェの場合は、色々見てきた経験からか?」
「あぁ、そうだな……色々見てきたよ」
「例えば?」
それは、ちょっとした興味本位。どんな物を見てきたのか、という。
あまり遠出をしないから、少し気になった。
軽く考えたらしい後、彼は口を開いた。
「一瞬で全てを失った世間知らず、復讐を決めた馬鹿、親を食い物にした少年、忌み嫌われて捨てられた子供たち、妙な同業者、そいつの保護者で同行人、無愛想な主、無口な隣人、決意を持つ者、罪濡れの三兄弟、町に住む少女、それから……泣き虫の王様」
「へぇ…」
最後の一言。それは彼が何を知っているかを、文章で説明するより分かり易く伝える単語……『泣き虫の王様』。
どこまで話してるんだと、思わず苦笑をする。そして、もう、彼が過去にどう関係しているかを考えるのさえ面倒に思えてきた。些細なことなのかも知れないし、大きな事かも知れない。けれど、分からない以上はどうしようもない。そこそこ信頼は……多分出来る相手だろうから、放置したって問題はないだろう。
そして、話ながらも目を離さなかった記憶の住人たちへと意識を戻す。そろそろ悪夢の始まりだ。幸いな事に、ここにアレルヤはいない。
自分が見ている中で、唐突に男は幼い片割れを蹴りつけた。
鈍い音が聞こえてくるようだった。
隣で息を呑む気配を感じたが、目をやることはなく唯、繰り広げられる知らなければならなかった事を見る。片割れの痛みは自分の痛み。共有するのなら、視線を逸らすことは許されない……元より、逸らす気もないが。
そんな時である。ふいに、ハレルヤとロックオンの間に木製の扉が現れた。
何だ?と思っている間に光が漏れ、扉が開いた。
「あ、二人とも一緒だったんだね。良かった…」
現れたのは、片割れだった。