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「バカッ……なんでお前はここに…」
「タイミング悪かった?ごめんね」
「ごめ…ってお前な……そんな軽い話じゃねぇだろ!?」
見渡してみれば保護者だった男と、床に倒れて咳き込んでいる幼い自分が目に映る。なるほど、片割れはこれを見せたくなかったのか。
確かに思い出すのは嫌な記憶。目の当たりにして見るのなんて尚更のこと。理不尽な暴力と、逃げることを許せない絶望しかない記憶なんて……それでも目を逸らす気はない。そんなことをしても、過去は無くなったりはしないのだから。背負う罪、犯した罪…そられからは逃げられないのだから。
だから、床よりも腰の高さ分ほど高い場所に現れてしまった扉の、内側に足を揺らせて縁に座った。動く気はないという意思表示。同時に、何が起こるか分からない場所だから、もしものために逃げる準備を。
扉に手を掛けた瞬間に、感じ取ったのだ。自分の領域だからこそ明確に。ここは、今は何が起こってもおかしくはない状況になっているのだと。
確かにここは『何か』に浸食されている。おそらくそれが『世界の内包する歪み』……いや、あるいは『自分という存在の矛盾』によるものかもしれない。両方、ということも有り得るだろう。
「ハレルヤ、君は心配性だよ。僕が何回、この部屋に連れられてきたと思っているんだい?このくらいなら大丈夫」
「けどなッ……」
「…そーいう物言いしてる時は、あまり大丈夫って言わないんだけどな」
「ロックオン…じゃ、何て言うんです?」
「やせ我慢」
視線の先で、幼い自分が壁に叩き付けられた。
ズルリと崩れ落ちた自分に、男が寄ってくる…。
ぞくり、と背筋が凍った。
「……まさか。問題無いですよ」
「嘘だろ、アレルヤ。俺の前で隠し事が出来るとでも思ってんのかよ」
「う……いや、あのね」
…もしかして、ハレルヤとロックオンを組ませてはいけないのかもしれない。自分に対しては、とても。何故ならハレルヤはアレルヤの心の動きに敏感なようだし、ロックオンは言葉を滑り込ませるのが得意なようだ。
胸ぐらを捕まれて、無理矢理立たされる自分を眺める。
頬が殴られ、腫れる。きっと、部屋から出たらハレルヤのお世話になるのだろう。
何だか、自分の右頬もヒリヒリとしてきた。
『貴方は……知って…』
喋っている最中に、再び殴られる。
思考は言葉と成らず、たんなる空気として口から漏れた。
『喋るなと言っただろう!いいか!?お前は黙って俺の言うことを聞いていればいいんだ!お前らなんて簡単に捨てられるのを忘れるなよ…っ』
『……っ』
唇を、幼い自分は噛み締めた。
言いたいことを、押し殺して。
「捨てないで…」
ポツリと、あの時に思っていたことを口にする。
「捨てないで。僕らを捨てないで。居心地が悪かろうと安定した居場所を。暴君であろうと庇護者を。僕らが『普通に』生きるには、ソレが何より必要だから。だから……僕らを捨てて、引き離さないで。それが『契約』。僕は従順になろう。代わりに、貴方は僕ら三人を引き離してはいけない。それが『契約』。そして破棄しようとすれば……」
驚いている観客二人を見ることなく、沈んだ気持ちで小さな自分が言いかけた事を紡ぐ。
「…貴方は知っていますか?僕には力はない。けれど『力』はあることを……」