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どうなることかと思ったが……それほど厄介な状況になることもなく、むしろ良い方へと転がったらしい。そう、男が部屋から出て行くのを見ながら思った。
先ほどからあの男…養い親らしい男の一挙一動に、アレルヤが僅かながらも反応していたことには気づいていた。おそらく…昔の記憶が襲いかかってきたのだろう。暴力を伴う記憶は程度の差こそあれ、それの持ち主を蝕み続けるのだから。強い暴力……例えば死に至らしめる物……であればあるほど、その傾向は顕著だ。自分がそう思うのだから間違いはないだろう。受けた当人でなくても、間近に見ていても同様だと言うから暴力というものはタチが悪い。
だが…ハレルヤの感情任せの行動の後、それが少しばかり無くなった。完全にというのは無理があるだろうが、それでも十分な成果であるといえるだろう。強い感情をぶつけられたからこその現状に、ロックオンは安堵の息を漏らしていた。見ていてハラハラとはしたが、手を出してはいけないような気がしたから、沈黙を守り続けていた。正しい選択だったようだ。
「二人とも、この部屋の記憶はこのあたりまでで良いでしょう?次の扉に行かない?」
「……次ってどこだよ?」
「僕らの禁忌の日。あの日と……僕は向かい合わないといけないから」
そう言って、アレルヤは微笑んだ。少しだけ悲しげな、苦しげな笑みで。
無理をしている……ワケではないのだろうが、見ているこちらが痛々しい。もっと逃げてもいいんじゃないか、なんてことを思ってしまうほどに。しかし……それを望まず、彼は前へ進もうと決めたのだ。黙ってついていくほか無い。
扉の向こうで立って手招きする彼に従い、扉を潜る。
ハレルヤも同様にしたのを確認して、アレルヤは扉を閉めた。
それを認め、ロックオンはぐるりと辺りを見渡した。といっても一直線の廊下に、両側の壁一面の扉しか無い。この扉一つ一つの先に彼の記憶があるのだと思うと、過去というのは偉大だと思わざるを得ない。これほどまでに過去の思い出があると、こうもハッキリと目の前にすると。
「いきなりあの場所かよ……いや、お前に覚悟があるんなら…いいけどな」
「ゴメンね、付き合わせちゃって……ロックオンもごめんなさい」
「気にすんなって。俺の場合は勝手に付いてきてるだけだしな……と、それよりも」
「……?」
「分かるのか、そこに繋がってる扉の場所」
一瞬の間。
それから後、あぁ、とアレルヤは手を打った。
「そういえば、探さないといけないんでした」
「え……ちょ…ちょっと待て!?お前、どこに扉があんのか知らねぇって言う気か!?」
「えとえとえと……ドンマイっ」
「元気よく誤魔化すな笑顔で親指立てるなッ!この膨大な量の扉から、一体どうやって探せっつーんだお前は!?」
「僕の領域といっても、広すぎて把握できないんだよね。しょうがないよ」
「開き直んなッ!」
ハレルヤが肩を掴んで揺さぶるが、アレルヤには堪えた様子もなく「いや、ほんとにゴメンよー」なんて言っているものだから…緊張感も何もない。さっきまでのシリアスさは、双子が互いに本音というか…を全て言い合った結果だろう、ほとんど残っていなかった。
はぁ、と溜息を吐いて、パンパンと手を打つ。
こちらに双子が注目したのを確認して、それから口を開いた。
「そーいうんなら仕方ない。手当たり次第に開けてくしかねぇだろ」
「テメェ……この扉、どんだけの量があると思ってんだ…ッ!?」
「そうですよ、ロックオン。約二十年分の記憶が収納されているんですから」
「いや…表現的に収納は違う気が……」
それでもまぁ……他に手の打ちようもなかったので。
三人一緒に、手分けしてお目当ての扉を探すことになったのだった。