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「お前さ……もうちょっとゆっくり歩いてくれないか…?」
「嫌だ面倒な。何でテメェに合わせねぇといけないんだよ」
「いや、俺貧血だし……」
「知るか。テメェが俺に合わせろ」
「んな無茶な…」
それが出来ないから頼んでいるというのに。それを分かっているのだろうか……分かっているのだろう、きっと。それでもやっているというから、始末に負えないというか、もの悲しくなるというか。
相変わらずのペースで歩く彼の背中を眺め、溜息を吐いた。本当にペースを落として欲しいのだが。普通に歩けと言うのは今の自分には、とてもキツイものがある。むしろペースが上がっているような気がするのは気のせいだろうか?…気のせいだと信じたかった。
「で、目的地とかは?」
「ねぇよ、ンなモン。止まっててもどーしようもねぇだろ」
「あぁ……そりゃそうか…」
何となく納得。確かにその通りだった。
なるほど、と思いながら彼に担がれているアレルヤを見る。
落ちかけた自分に手を伸ばしたとき、彼はロックオンを『ニール』と呼んだ。それは本名で、専ら偽名を用いている自分のソレを、一体どうやって、どこで知り得たのだろう?教えた記憶はないのだが……その記憶が改竄されている、ということもないだろうし。
偽名を扱うようになる前に会ったのなら、それも分からなくはない。が、彼とは先日初めて会ったのであって、狩人を始める前に会ったことは無いはずだ。覚えがない。だから本名を知るに至る事情が、全く分からないわけなのだが……人に訊いたというのも無理があるだろう。
では、と思って首を振った。こういうことは考えても分からない物だ。答えのでない疑問に頭を使うより、そちらに回す酸素を体を動かす方に使った方が良い。このままでは本当に倒れそうだった。
「あ、そうだ。一つ提案があんだけど、訊くか?」
「提案?」
「さっきのアレ、忘れたかったら忘れさせてやる」
「……『書き換え』て、か?」
二つに分かれた魔王の力。片方がアレルヤに渡ったのなら、では、もう片方は?
訊くまでもない、それは見れば分かることだった。
だから訊いたのだが、しかしハレルヤは振り返ってバカか?と呆れにも似た表情を浮かべていた。
「何でンな事にそっちの『力』を使うんだ?」
「いや、流れ的に」
「どんな流れだ…?…とりあえず後付の『力』どもは好きじゃねぇんだよ」
だから滅多に使わねぇよ。必要に迫られても使うか分かんねぇな…。例外はあるけど。
そう言う彼は決して大げさに言っているわけではないようで……そこが、彼と彼の片割れの差なのかも知れなかった。とにかく使おうとは思わない彼と、必要ならば…そちらの方が確実ならば使う彼との差。まぁ、上がってしまった身体能力はどうしようもないだろうから、そこは有効に活用しているのだろうけど。
「ってことは……お前の元々の能力って」
「……多分、テメェが思ってるのだよ…」
「記憶の書き換えか……地味だな」
「ちょっと違うけどな…………けど言うな。気にしてんだ」
で?と問われ、ロックオンは首を左右に振った。忘れようなんて、一欠片も思わなかったから。