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今回は珍しくAEUの二人の話。
そして、ゲストが二名ほど…。
09.鉄棒
約束の時間きっかり5分前に、待ち合わせの場所に着く。
相手は……もう来ていた。落ち着き無くソワソワとしている様に落ち着きは全くないが、見ていてそれほど見苦しいだとか、不快な思いは抱かない。何というか……そう、純粋な感じが伝わってくるからだろうか。
フッと笑みを浮かべて彼の方へ向かえば、こちらに気づいた彼はそれはもう飼い主を見つけた犬のごとく、顔をパァッと明るくして駆け寄ってきた。
「大佐!来てくれたんですね!」
「約束だからな」
その約束(といっても実際は彼が半ば強引に成立させた類の物だが)というのは、つまりは『夕食に行きましょう』という物。一度それに付き合って行ったことがあるのだが、それ以来彼はことある度に誘ってくるのだ。
まぁ、忙しくない時は誘いに乗ってみたりもする。
彼のことは嫌いではないし、とにかく放っておけないから。
今回はいつもより早い待ち合わせで、まだまだ外で子供が遊んでいるような時間帯だ。夕食までにどこかに寄りましょう!とか言っていたので、その都合もあるのだろう。
「……で?どこに行くんだ?」
「大佐には行きたい場所って……ん?」
ふいに、彼が何かに気づいたらしく、どこか別の方向を向いていた。
自分もそれにならってみると、視線の先にあるのは公園で、そこにあったのは鉄棒。
本来なら、それは子供が使う遊具である。遊んだり、練習したり。そういうもののハズ……なのだが。
何故だろう。そこで練習しているのはどう見ても女性だった。
どうやら逆上がりが出来ないらしい。傍にいる長身の男性は苦笑しながらもコツを教えようとしているようだが、教え方が下手なのか……あるいは相手の方が壊滅的なのか、一向に実を結ばないらしい。
「パトリック、気になるのか?」
「大佐、教えてきて良いですか?」
「構わん。お前の好きにしろ。私は特に行きたい場所もないからな」
そういうわけだ。時間はタップリあるだろう?
そう続けると、コーラサワーは嬉しそうに頷いて公園の方に走っていった。
ゆっくりと歩いて追いついてみると、彼と練習していた女性の会話が聞こえてきた。
「このスペシャルな俺様、パトリック・コーラサワーがコーチしてやるから安心しろ!」
「偉そうに何を言う……コーラサワーだと?貴様など炭酸で十分だ」
「んなっ……テメェ!この俺が誰だか分かってねぇな!?」
「フン…そんなこと、俺の知ったことではない。というかお前は一目見たときから気に入らなかったんだ。消えろ、魂どころか存在まで消えてしまえ」
……何というか、まぁ、予想はしていた結果だった。
彼の大げさな自己紹介は、頼もしく思わせるか、イライラさせるかの二つに一つだ。そして、今回は後者になってしまったに過ぎない。
にしても……女性だと思っていたが、男性だったらしい。声が低かった。
それは置いておくとして、こんな状況になった原因…つまり逆上がりの練習の理由を聞こうと、答えてくれるかは不明だが…もう一人の方に声を掛けた。
「訊きたいのだが…何故、彼は逆上がりの練習をしているんだ?」
「あ…お連れの人ですか?えっと…彼、実は…」
と、思ったよりも愛想の良かった青年は、事の始まりを簡単に説明してくれた。
同僚たちと話をしていたときに偶然鉄棒の話になり、そこで彼が逆上がりをしたことが無いことが判明したのが原因だそうだ。そして、それを話し始めた最年少の同僚が鼻で笑ったことが決め手となった……ということらしい。
それは…なるほど、有り得る。
僅かな時間ながらも観察した限りでは、女性のような彼はプライドが高いようだし、そんなけなされ方をすれば、火が付いてもおかしくはなかった。
「仕事で偶然こっちに寄って…それで、時間が余ったからっていうことなんです」
「なるほどな……」
ギャンギャンと叫ぶコーラサワーに、苛立ちを隠さずに怒鳴り返している彼をちらうぃと見、今現在では唯一、話が通じる青年の方に視線を向け直す。
「で?どうするんだ?練習を続けるのなら私が手伝ってやる」
「え……いいんですか?」
「時間はタップリとあるからな」
そう言うと、青年の表情は驚きから微笑みを讃えた物に変わった。安堵しているらしい。
「助かります……僕、出来るのは出来るんですけど、どうしてもコツを説明出来なくて…」
「出来るのと話せるのとは違うからな…よし、では」
「……?」
「まずはあの二人を止めるところからスタートだ」
…そうしなければ練習どころではない。
それから約一時間後、初めての逆上がりを成し遂げた紫の髪の彼は、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
ゲスト二名の正体は言う必要もなく理解いただけたと思います。
ていうか武力介入ついでに何をやって…。