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　夢を見ていた。それは、二人の人間を殺した後の記憶。

　落ち着いた愚かな子供は、他人を信じられなくなった。耐えていたのに、それは無駄な徒労だった。徒労にされてしまった。折角の『契約』だったのに、それは破棄されてしまった。あまりに一方的に。それは苦しくて、悲しくて。

　けれど信じることを止められなくて、遠ざかるのを怖がって、大切な家族たちと離れないようにといつも一緒にいて。拒絶は無く、それがとても嬉しかった。

　ある時、愚かな子供はふと思い至ったことがあった。バラバラに売りに出された双子達。一人の引取人は灰になってしまった。
　じゃあ、取引人の二人目は？

　引き離そうとした、その相手が一人、確実に生き残っていると分かったとき、愚かで浅はかな子供は、その相手も手に掛けようとした。復讐。元凶は、全て消し去りたかった。

　調べるのは簡単で、あの鏡に訊けばよかった。実行するなら、芽生えた力を駆使すればいい。『書き換え』る力を使う必要など無く、あらゆる異端の持つ能力を行使する特権を用いれば良かった。

　だけど、それは実行できなかった。素直じゃないけど優しい彼と、何よりも近しい片割れが、やってはいけないと止めたから。大好きな彼らの言うことを、どうして聞かないでいられるだろうか？愚かな子供は、それならと止めた。

　それから月日が経って、その時の罪の重さをハッキリと自覚したとき。
　子供は子供とも大人とも言えない歳になっていて、罪深さを知った瞬間に、足下が崩れ去っていくような感覚に襲われた。生きていていいのだろうかと、そこまで考えた。

　けれど死ぬことは許されない。殺した分まで生きないといけないから。殺した罪を、自分を殺して贖おうというのは、逃げだ。生きてこそ苦痛は存在する。変わらない笑顔の下で、過去の罪に押しつぶされ続ける。それこそ贖罪。誰もが見ている中で、誰もが知らない間に壊れていくのが相応しいと思った。

　それでも、たった二人の家族には隠し通せなかった。小さな狂気に気づかれて、近しい片割れに、応急処置として罪を伴うを遠くへと放られてしまった。記憶としてはあるのに、それは実感を伴わない。人の感情や記憶……精神面に手を加える事が出来る、本人には不評の力があってこその状態に、愚かな少年は誘われた。

　それはいけない事だったのに。なのにそれが楽しくて、穏やかで、幸せで。
　いつしか急激な変化が、怖くなっていた。罪から逃げるのは許されないのに、その仮初めの平穏を手放すのが怖くなっていた。停滞を求め始めていた。

　そして、そのまま時は流れて、罪を背負うキッカケともなった鏡を苦手にするようになり、その鏡のせいで不思議に流れる時間を弄ってみて、近所の人と過ごして。
　檻の中の少年を助け出して、新しい『家族』と認めて、それからまた、時は経ち。

　今に至った。
　新しい罪を持って。

　狩人たちを消したのは自分だし、傭兵を切り刻んだのも自分だと言えた。また人を殺してしまった。それは新しい十字架。けれど、居場所を守りたかったから。そこが無いと壊れるなんてものでなくて、もっと恐ろしい罪を、何も感じずに犯してしまうから。そのためには仕方ないから。何より、自分がしなければ他の誰かが先にやってしまう。起きれば忘れてしまう記憶……今は思い出せない『あの時』みたいに。

　これからもこの手は赤く染まるのだろう。それでも、笑って生き続ける。罪を背負いながら、今度は壊れる事無く。何故なら記憶を、『二番目の大罪』の思い出を共有する相手が増えたから。支えてくれる相手が増えたから、増えてしまったから。

　目覚めなければ良いのにと思うこともある。起きてしまえばこんな思考も、忘れてはいけない忘れたことも、何もかもが水のように指の隙間から零れ落ちる。思い出せなくなるから。ここにいれば、ずっと一人で罪について思いを巡らせる事が出来る。

　それでも、やっぱり起きてしまうのだろう。
　何と言おうと、あの場所が『居場所』だから。