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「どうだい?何か読み取れたことは」
「いや…ダメだな。所々は分かるんだが」
一応『一人』『寂しい』『分ける』『二種族』『我々』など、僅かながらも単語を読み取ることは出来るのだが、残念ながら訳せない文字の方が多い。文法も全く分からないし、万事休すとはこのことを言うのだろう。
黒い本を閉じて、ティエリアは溜息を吐いた。
無理もない話だとは思う。書かれている文字はいわば『古代文字』とでも呼べる代物で、今でも都にあるアカデミーで研究が続いているのだ。今持てる最大限の知識を持っていたとしても、それでは文章を読むには不足しているのだから。
そもそも、本が開いたことが奇跡だった。鍵が付いていたこの本だったが、軽く触れただけでカチリと音を立てて開いた。驚くほどあっさりと。
カタギリ曰く、この本は『魔』の力によって閉じられていたと推測できるらしい。
つまりこの本を開くことが出来るのは、鍵を持つ誰かか、『魔』に対する力を持つ者だ。
人間であるがティエリアは元来、『魔』を収める力を持っている。だから触るだけで開いたわけだが、グラハムとカタギリの方はそうはいかなかったらしい。中身を確認することは出来なかったと言っていた。
「にしても、よくこの本を見つけたな。内容も分からなかったのだろう?」
「まぁねぇ。ハッキリ言うと、内容に関しては賭だったよ。確認できなかったし」
「賭か……まぁ、外さなかったのだから文句は言わずにおいてやる」
「ハハハ…外したときが怖くなるようなセリフだね…」
「外したら処刑だからな」
「うわぁ…」
顔を引きつらせているカタギリから視線を外し、チラリとアレルヤの方に視線をやる。
すると一瞬だけ視線が交錯したのだが、プイと直ぐに逸らされてしまった。……まだ、機嫌を直してくれないらしい。まぁ、それも分からない話ではないが……早く機嫌を直してもらわないと、謝ることさえ出来ない。別に『悪い』とは思ってないが。
どのみち、誰かがやらなければならない役なのだ。婚約者なんてものを作る気が無いティエリアにとって、何とか誤魔化すという行為は必須事項。それを知っているから、文句を言いつつも従ってくれるのだろう。
ちなみに彼に頼む理由は『彼だから』である。
「……何か、この文字について新しい発見は?」
「気になるのかい?なら都に行くついでだ、アカデミーに寄っていくと良い」
「アカデミーに、か…」
ニコリと微笑んだカタギリに提案され、ティエリアはゆっくり瞳を閉じた。
確かに、行ってみるのも良いかもしれない。新しい発見云々以前に、あそこには既知となっている相手が何人かいることだし。自分の顔を忘れられても構わないが、情報を得ることが出来なくなるのは困る。こっちは死活問題なのだ。
そんなことをつらつらと考えていると、ちょっと待った、とロックオンが手を挙げた。
「いたんですか、ロックオン」
「いたよ!さっきから影は薄くなってるけどな!てか主要メンバー全員いるぞ!?」
「そういえば…刹那は相変わらずグラハムに抱きつかれてますね……で?何です?」
「アカデミーって、基本的に部外者立ち入り禁止だろ?寄るとかできるのか?」
何だそんなことかと、ティエリアは鼻で笑いながら本を再び開いた。
どうにかして内容を読み取ろうと、紙面に目を落としながら口を開く。
「俺は仮にですが、アカデミーに在籍しています」
「……マジでか。あそこ入るの大変じゃなかったっけ…いや、お前ならいけるか…」
「入ってしまえば除籍はほとんどありませんから、こちらのものです」
答えながらもじっくりと先ほど読んでいたページを見、捲ったところで顔をしかめた。
そこにはページがなかったのだ。どうやら誰かに破り取られた様なのだが……一体、誰がそんなことを。全く持って迷惑な話だった。