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昼が過ぎて午後。
ある程度体の調子が戻った刹那は、リハビリがてらに屋敷の中を歩いていた。隣には、まだティエリアとハレルヤに腹を立てているアレルヤがいる。
デザインをして間接的に犯行(とは違う気もするが……)に手を貸したハレルヤに対する怒りは弱いようだが、無理矢理引っ張ってきて、自分たちにその姿を曝させたティエリアに対してはかなり憤っているらしい。刹那からすると、見せてくれてありがとう的な気持ちではあるのだが。
……とまぁそういうわけで彼は、屋敷の主と片割れと顔さえ合わせたくないらしい。
だから歩き回る刹那に付いていく、と言ってくれたのだ。ここはティエリア様様とでも言っておくべきだろうか。やっぱり彼による犯行の方が、この状況を作る手助けに成っているのは違いないだろう。
「次はどこに行く?」
「グラハムが来ない場所」
「グラハムが?……うーん、そうだね……」
真剣そうに悩むアレルヤを見る刹那もまた、真剣そのものだった。
何故ならこの時間は、自分にまとわりつく金髪の奇人を何とか振り切って得たものである。決して邪魔をされるわけにはいかない。
じゃあ、向こうに行ってみる?
そう指さされた方には暗い通路。
「……あちらには何が?」
「それがね、僕も知らないんだ。行ったこと無いから」
「行ったことが…無い?」
「うん。あっちは、行くのを止められていたから……」
その言葉に刹那はハッと目を見開き、僅かに逸らした。
止められていた、誰かに。ではその誰かとは何者か……決まっている、彼の義父。記憶の結晶を渡されていた刹那は、その男がどのような人物であったかを知っている。
ほんの少しの事だったが、それでもあんな男の事を思い出させたことを申し訳なく思う反面、だからといって謝ることでもないという思いもあった。多分、その男についての一番辛いところを乗り越えたのだろう彼に対して、こちらがそんなに気を遣ってしまうのはいけない。彼にとってそれがようやく『過去』、あるいはそれに類する物となったのだ。こちらが気にしすぎるのは彼の本意ではないだろう。
だから刹那はそうか、と呟くに止めて、彼の手を引いて薄暗い通路へと足を踏み入れた。
突然の行動に驚いていたらしいアレルヤだったが、直ぐにこちらの考えていることは分かったらしい。微笑んで、口を開いた。
「刹那は凄いね。ちゃんと人のことを考えられる」
「……別に、凄くない」
「凄いよ。それが出来るって言うのはとっても」
「その意見には……まぁ、賛成だが」
「…?」
溜息を吐いた自分に不思議そうな視線を向ける彼は、どうやら自覚をしていないようだ。彼自身もまた、他人から見れば『人のことを考えられる』ヒトなのだが。
いや……これについては何を言っても無駄だろう。何せ『自覚がない』のだし。
「…………いや、いい。それより右と左、どっちに行く?」
「あぁ、そうだね……右かな。どっちにしろ、ハレルヤもティエリアも行ったことがあるのに、僕だけ行ってないんだよね…」
「…そうなのか」
「行っては、みたかったんだけど」
そう言って笑うアレルヤの手を握る力を強め、刹那は少しばかりのもの悲しさを覚えた。
けれどそれは紛う事なき過去の話で、今の彼は『過去の記憶』にがんじがらめに縛られているわけではない。そうだからこそ、この場所に足を踏み入れたのだろう。
だから、この感情も今抱くのには相応しくない。
変わりに感じたのは、小さな感慨。