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このジャンルで発売日と言えばコレしか無いと思う。
途美学園です。
08.発売日
今日は新しいガンプラの発売日だ。
本来ならば何人もの収集家がおもちゃ屋へ来るであろうその日だったが、最も途美学園から近いソレには人っ子一人いなかった。客だけではなく、店主でさえも。
そんな状況でどうやって仕事になるのかと問われれば、どうやっても仕事にならない、と店主は答えるだろう。だが……店主であっても人の子。我が身可愛さに逃げてしまうことも仕方ない事だといえるらしい。
何故なら、来るからである。
途美学園に在籍しているとある生徒と、途美学園で働いているとある教師が、競うように、争うように。
それはもう台風のごとくの勢いであるため、一般客は恐れを成して逃げてしまうのだという。凄まじいオーラを放ち、発売されるガンプラの元へと向かう姿は……そう、寄進のようであると、店主は語ったそうだ。
とまぁ、それはともかく。
「いいか?間違いなくそいつらは刹那とグラハムだ。同じ学園に属している身としては、やはり見過ごしてはならないだろう……という旨の伝言がヴェーダから来た」
「絶対におもしろ半分だろ、あの学園所有者」
「ていうか…基本的にバイト禁止なのに、僕らがバイトまがいのことしていいのかな?」
生徒の代表、生徒会のメンバーなのに。
そう続けるアレルヤの言葉には非常に賛同したく、頬杖をついているハレルヤには生徒会でもないのにどうして一緒にいるんだと問い詰めたかったが……しかし、どれもやる気が起きずにティエリアは溜息を吐いた。
全く、どうしてこうも学園所有者は色々と考えつくのだろう。…巻き込まれる身としては、かなり迷惑なのだが。
だがまぁ、『いつものこと』と割り切ることが出来るほどに慣れてしまった自分たちもまた、どうしようもないとも思える。頻度がどうであれ、さすがにコレに慣れてしまったら社会に出たときが大変なことになりそうだ。
とにかく、である。今回彼女から下されたミッションは『怖がっている店主の代わりに店番をして、刹那とグラハムという脅威から守ってやること』なのだ。
ハッキリ言わせてもらうと、どうしてそんなことをする必要があるのかが理解できない。軽く受け流していれば、そのうち目的を果たして去っていくだろうに。
ティエリアはそう思っていた……のだが、開いた自動ドアから異質な風が吹いてきたのを感じ、眉をひそめる。
禍々しいというよりは執念を感じさせるソレ。
報告とミッションプランと、両方とを今のこの現状と重ね合わせてみれば……誰が来たのかは一目瞭然だった。
「刹那・F・セイエイとグラハム・エーカーか……アレルヤ、君はカウンターの内側でしゃがみ込んでいろ。ハレルヤ、君はどうとでも好きにするがいい」
「え?どうして僕はしゃがむ必要が…」
「いいから!お前がいるのがアイツらに気付かれたら、火が付いてる闘争心に油を注ぐ結果になっちまうだろーがッ!」
我先にとガンプラを取ってカウンターに向かおうとするであろう両者が、そこに少なからず好意を寄せている対象を見つけたら……色々とマズイことになりそうだ。
元々、過度なスキンシップが多すぎるほど多いグラハムと。
コレと決めたらとにかく迷うことなく突き進む刹那と。
こんな両者なので、尚更。
そして、そんな両者がこちらを向いて、驚いたような表情を浮かべた。
「……?ティエリア・アーデ?」
「ほう、このような場所で完璧主義者殿に出会えようとは…」
「黙れ」
グラハムに一言返しながら、ギリギリのタイミングでアレルヤの頭を抑えて一緒にしゃがみ込んだハレルヤに、まぁ感謝でも送ってやろうと思う。本当に……危なかった。
下からは物問いたげな視線が向けられるが敢えて無視させてもらって、客の二人への対応に意識を集中する。
「で、どちらが先に払うんだ?」
「俺だ」
「私だ」
返ってきたのは予測通りの返事。
先ほどから少しずつ強まっていく敵意のようなものを思いながら、確かに……と一人納得する。……否、納得せざるを得ない。
どうりで店主と客が逃げていくハズである。
ダブルオーガンダムのガンプラの箱を持っている二人を眺めながら、これから一生、ガンプラの発売日が来なければいいのにと思った。
店主のためにも、客のためにも、次があったら再び駆り出されるであろう自分たちのためにも。
この二人ならあり得なくないと思う。