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このタイトルで、どうしてこんな内容になったんだろうと、自分で自分に訊きたいです。
09.青いスケッチブック
それは唐突な話だった。
「……絵?」
「そうよ、絵を描いてもらうわ」
ロックオンの言葉に頷くスメラギを、刹那はどこか遠い世界のことのように感じていた。
ここはソレスタル・ビーイング。武力によって紛争に介入し、世界から争いを無くして恒久平和を為すための施設武装組織である。つまりは、世界に対してケンカを仕掛ける組織、ということなのだが。
それが、しかも実行部隊の自分たちが……どうして絵?
脈絡がない上に、今の自分の状況に全く結びつかない。むしろ繋がる方が恐ろしい気もするが。
それはともかく。
「スメラギ・李・ノリエガ、何故、我々が絵など描かなければならないのですいか」
「だって貴方たち、仲間なのに全くと言っていいほど仲良くないじゃない」
「それがどうやったら絵描きに繋がるのかと訊いているんですが」
「ほら、みんなで同じ事をしたら連帯感が湧くかもしれないし」
楽しそうに笑うスメラギ。
それを見ながら、刹那は壁にもたれ掛かって腕を組んだ。
……ハッキリ言って、誰とも仲良くなり難い気がするのだが。
ロックオン・ストラトスはまぁ……どちらかといえば話が分かるタイプだが、如何せん、彼はどこか『おかん』的な雰囲気を持っている。父親でも良いかもしれないが、何というかその……一番最初に浮かんだソレが妙にしっくりあったので。そんな彼は、わりと私生活に口うるさい。そこがネックだ。たまに、瞳に暗い光が宿るのも気になるし。
ティエリア・アーデは……論外だ。絶対に仲良くなれない。なる気はないし、あちあもそれは同様らしいから、きっとずっと。理由はないのかも知れないが、どこか気に入らないのだ。同族嫌悪か?と以前問われたことがあったが、それは違うと信じたい。確かに、ミッションを完遂しようという意思は似ているかも知れないが、ベクトルが多分、違う。
そして、アレルヤ・ハプティズム。
そう、彼が一番分からない。
見た目とは裏腹に穏やかなのは知っている。親しみやすい人柄なのも理解している。
だが……どこか、近寄りがたい。
たびたびある独り言のせいではなく、雰囲気のせいで。
彼を見る度に思う。彼の世界に、自分たちは存在しているのだろうか……と。
まるで完結した世界にいるように思え、そのせいで親しくなろうとは思えなかった。……彼の世界を、崩せなかったとも言う。
けれどまぁ……彼らと出会って何日も経っている今だというのに、ここまで仲が良くないのはどうだろう。ミッションでは組むこともあろうし、少しは仲良くしていたほうがミッションの成功率も上がるかも知れない。気休めかも知れないが。
「それにね、」
結局、彼女の言葉に従うことにして、エクシアと同じ色のスケッチブックを受け取り、描くための道具も受け取る。
その最中に、誰に聞かせるでもなく呟かれたスメラギの言葉が、刹那の耳に届いた。
「絵を見れば、その人が何を思っているかも分かるかも知れない……」
思わず。
思わず、彼女の口にした事を聞いて、刹那は聞き返そうとした。
一体どういう意味かと。
そもそも分かり合う必要があるのかと。
しかし刹那は行動を起こすことは出来ず、ただ、緑色のスケッチブックをロックオンに渡すスメラギを見るしかできなかった。
それから後にアレルヤにオレンジ、ティエリアに紫のソレを渡したことから、各自のイメージカラーに合わせているのだと気付く。何とも細かいことだ。
「じゃ、これに好きな物を描いて?時間はそうねぇ……一時間ってとこで」
「本当にやるのかよ……」
「たまには違うこともしてみたら、リフレッシュになるかもしれないわよ?あ、ちなみにこれ、ミッション扱いしてるから」
溜息を吐くロックオンの肩をポンと叩き、スメラギは部屋から出て行った。
残ったのは、全員揃って何日も経っているというのに連帯感があまりないガンダムマイスターたちのみ。
あまりの急展開に呆然としていた四人だったが、各々、諦めた様子で筆記具が入っているという箱に手を伸ばした。
刹那も同様にし、呆れた。
箱の仲には鉛筆からクレヨン、水彩絵の具、油絵の具、色鉛筆など……とにっかく、絵を描くのならばこの装備があるだけで十分かもしれない、というほどに色々な用具が入っていたのだった。Gペンまであるから不思議である。
さて、何を書こう……と考え、何時の日か、戦場を掛けている最中に見た花でも描いてみようかと思った。あんな場所に生えていたために、酷く印象に残った、弱々しく見えながらも強い、そんな花の姿を。
手に取ったのは鉛筆。
絵など、あまり描いたことは無いから、出来るかは分からないのだが……努力はしてみようとスケッチブックに向かい、ふと、偶然に隣にいたアレルヤの絵が目に入った。
……否、それは絵ではなかった。
元々は絵であったのかも知れないが……少なくとも、今は絵ではない。
見えたのは、紙一面の黒。
黒の下には赤が覗き、それはあっと言う間に黒に塗り潰されていく。
何度も何度も一心不乱に、怯えとも焦りともつかない表情で、彼は塗り潰していた。
そのうち、紙のどこにも赤はなく、白も無くなって、それでも彼は手を止めることをしない。
それ以外の動作を忘れたかのように。
赤と白があったことを消すかのように。
呆然とそれを見ていた刹那だったが、ハッと我に返ってアレルヤの腕を掴んだ。
「っ……」
ビクリと体を震わせた彼の、その瞳に映っていたのは恐怖。
止めたのが正解か失敗かは分からなかったのだが、それを見て、正解だったのだろうと察する。放っておけば一時間、ずっと同じ事をやり続けていたかも知れない。冗談でなく、本当にやりかねない雰囲気があった。
「絵を、描くんだろう?」
「…そう……だね」
ゴメンね、と呟いてから浮かべられた微笑みは、どこか翳りがあった。
「赤と白は……苦手、だから………つい」
「ならば何故、赤を?」
「それはその……ハレルヤが」
「ハレルヤ?」
誰だろうか……祈りの言葉ではあるが、アレルヤが『アレルヤ』というコードネームを持つこともあるし、名前であることも考えられ、実際そうだろうから刹那は首をかしげた。
今、この場にはマイスターが四名ほど。五人目はどこにもいない。
そんな刹那の困惑に気付いたのだろう、アレルヤは慌てた表情でワタワタと手を動かしていた。おそらく無意識だろう。
「えっとえっと…でっ……出来れば気にしないでほしいかなっ!」
「……そこまで言うなら」
あまり興味がなかったのも事実だし、彼がそう言うのならば思考を止めても問題はないだろう。
そう思いながら、つまりは彼のことを考えたりはしていなかったのだけど。
「ありがと…刹那って、いい人なんだね…」
本当に嬉しそうな笑みを浮かべる彼を見て、少し妙な気持ちになる。
これは、この感情は何だろうか……。
考えている内にアレルヤが、あ、と手を叩いた。
「そうだ。お礼しないと」
「いや……別に俺は…」
「いいから、ね?」
微笑みに負けて頷くと、彼はさらに笑みを深いものにしてから刹那のスケッチブックを取った。
何をする気かと見ていると、彼は紙を一枚めくり、そこに滑らかに鉛筆を滑らせ始めた。
数分後、出来た、という言葉に反応して顔を向けてみる。
そして、驚きに目を見開いた。
「……これは」
「刹那、好きでしょう?…あまり上手く描けたか分からないけど」
「十分だ…」
そこには、エクシアの姿があった。
見たところ細かいところにさえ違いは見えなかったし、影まで付いていて完成度は高い。
そのうち、驚きは賞賛へと変わっていく。
自分の機体でもない対象を、よくもまぁここまで間違えずに描けるものだ。よっぽど観察しなければ描くことなど……。
「……もしかして、他の機体も」
「え?うん、描けるよ?」
「何故…?」
「えーとねぇ……多分さ、興味があったんだと思うよ?」
「何に」
「『他』っていう存在に」
あまりに曖昧すぎる返事を訝しく思ったが、時計を見れば時間は半分過ぎていたし、少し遠くにいて、こちらの様子を窺うのが難しかった二人も興味を持ち出した様子だし……そろそろ、描くのを再開した方がいいだろう。
その旨を伝え、了承を得てから、刹那は再びスケッチブックに向き合った。
……今度から、少しくらいはアレルヤと話してみようか。
そんなことを思いながら。
今の会話で、少し、興味が湧いたから。
そして介入が始まった今でも、その青いスケッチブックは宝物だった。
こういう事があってもいいかとか何だとか。
スメラギさんは遊び心がありそうですから。