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カウントダウンもついに半分。
今回は途美学園設定でのお話。
10.レシートの裏
「……ちょっと質問していいかしら」
「何?シーリン」
「メモ帳は備え置きのが有るわよね?」
「えぇ。寮って素晴らしいわね。何でもあるんですから」
「じゃあ訊くけれど…」
眉間を揉みほぐしながら、シーリンは言う。
絶対に、何で自分がこんな表情をしているかを理解していないマリナに対して。
「どうして、レシートの裏をメモ書きにするのかしら?」
「だって……勿体ないじゃないの」
「だとしても、際限っていうものがあるでしょう」
ビッと突き出したのは証拠物件。
ビッシリと文字が書かれているだけでなく、さらにその上にまで文字が書かれているというレシートの…裏側。しかも文字は先に別の文字が記されている表面にまで浸食しているという有様である。
これを見た瞬間のシーリンの衝撃といったら……言い尽くせる物ではない。
裏を使うのは分かる。まだ分かる。確かに勿体なくはあるかも知れない。そこは潔く認めることとしよう。
だからといって、程度というものがあるのは事実なのだ。
「いい?これは異常なの。いいえ……異常と言うよりも、こんな状況の文字達を認識できることは神技にも等しいのよ」
「あら、ということは私は神様なのかしら?」
「そういう話じゃないでしょう…ティエリア、貴方も何か言ってくれないかしら?」
マリナと寮の同室で生活している生徒会長に話を振ってみるものの、返ってきたのは酷く疲れた溜息だった。
「俺からも何度も言っている……が、相手が相手だからな…諦めた」
「ほら、ティエリアも理解してくれているわ」
「…マリナ・イスマイール、君は耳が悪いのか?俺は諦めたと言ったんだが?」
嬉しそうに微笑むマリナに微かに畏怖を感じながら、シーリンは頭を振って気持ちを切り替える。いくら彼女が常人とは違う感性を持っていたとしても、それは大して問題ではないのだ。
「あら、諦めたって事は納得してくれたんでしょう?」
「違う!諦めたというのは気にしないことにしたということだ!」
「それって遠回しに認めてるってことよね?なら、納得したんじゃないの?」
「くっ……」
最強とうたわれる生徒会長も、マリナ相手では分が悪いらしい。
今度はハァ、とシーリンが溜息を吐いた。
「とにかく、レシート裏を使うのは構わないけれど……二重三重に文字を書くのは止めてくれないかしら。そういうときはメモ帳を使って頂戴」
「けど……やっぱり勿体ないわ」
「全て『勿体ない』で片付けないで。なら、石油が勿体ないと言って貴方は電気を夜中でさえ、点けようとしないのかしら?」
「それは……無いけど」
「でしょう?貴方はそのくらい、度を過ぎているのよ」
さすがに極端すぎる例を挙げると納得してくれたらしい。神妙な顔をしているマリナに、シーリンは人知れず安堵を覚えた。
良かった……。
けれど、安心するのは早かった。
「なら、今度からは電気も消すわ」
「……え?」
「……は?」
「そうよね。やるなら徹底的に、ね!」
ありがとうシーリン!目が覚めたわ!
そう言って笑うマリナを、もう、シーリンは呆然と見ているしかできなかった。
あと、それから、同室のティエリアに同情することしか。
……いや、本当に同情する。
念のために付け加えますが、どうにかして電気に関しては防いだようです。