[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
160
裂け目から腕を引き抜いて、アレルヤはクスリと笑った。
人形なのに食べ物がいるなんて、何だか不思議だ。
けど、人形が一人で勝手に動くことから有り得ないことだし、これはもう今更のことかもしれない。むしろそのくらいの不思議は、可愛い物だろう。
点けていた明かりを消してキッチンから出ると、出入り口の所に刹那が立っていた。もう随分と遅いはずだが……こちらに来てもらう事になったから彼がいるのはいいが、こんなに遅い時刻まで起きているのは些か問題ではないだろうか。
「アレルヤ、エクシア……アイツらには」
「大丈夫。遅いけれどちゃんと晩ご飯は渡したよ」
「……ならいい」
無表情の中に若干の安堵を混ぜた顔で彼は頷いた。
どうやら刹那は、あの四人がとても気に入ったらしい。特にエクシアが。
性格が近いから付き合いやすいんだろうなぁと思いつつ、しばらく一緒に歩いて部屋に行こうと促す。先の通り、今は本当に遅い時間なのだ。たとえ刹那の目が覚めていたとしても、そろそろアレルヤが眠くなってくる。
わかった、と了承を受け、二人は隣り合って歩き出した。
夜の廊下は閑散としていて、まるで何かが出てきそうな雰囲気だが……まぁ、ここに色々な血が混ざっているとはいえ一応は吸血鬼の括りに入れてもらえるだろう存在(つまり自分)がいるのだし、これ以上夜の友達がくるのもどうかとは思う。吸血鬼が居る上に幽霊、なんてのはあまり嬉しくない状況だろう。
そう言うと、しかし刹那は首を振った。
「今、この屋敷にはそういうのより恐ろしい……別に怖くないが…モノが居る」
「怖くないって……君だし言わなくても分かってるよ。で?それ以上に怖いものって?」
「あのチンピラ曰く…金髪変態大馬鹿野郎」
「……え」
「俗に言うグラハム・エーカーというヤツだ」
「いやいや……俗にっていうかそれが本名だよ?」
言いながら、アレルヤはクスクスと笑う。どうして刹那が庭園風の庵に入り浸っているか、その聞いた理由を思い出したからだ。
「本当に刹那って、グラハムのことが苦手だよね。避難までするなんてさ」
「当然だ……アレルヤも体験してみるといい」
「引っ付き回られること?…既に体験済みだよ」
「そうなのか……」
驚いたような表情を浮かべる刹那に、軽く頷く。
ちなみに付け加えると、ティエリアもハレルヤも体験者だ。
大変だったなぁと、孤児院にいたときのことを思い出してみる。
あの頃はグラハムも本当に見境が無くて、自分が気に入った相手には四六時中引っ付いていた記憶がある。けど、別にそれは嫌でなく、一緒にいてもらえると暖かい気持ちになったのはアレルヤだけなのだろうか?
…多分違う。きっと口では文句を言っていても、二人とも同じ気分になったに違いない。ただ、それを認めたくないだけなのだ。
きっと、グラハムは寂しいと思っている誰かの傍に行くのだろう。そしてただ、そこにいて僅かでも寂しさを減らしてくれるのだ……と、アレルヤは推測している。
ということは、刹那も心のどこかで寂しいと思っているのかもしれない。いくらここが賑やかであっても、望郷の思いは小さかろうとどこにあるのだろう。
そういう場所に、少なからず興味はあった。
「ねぇ、刹那……僕さ、君の故郷に行ってみたいな」
「…面白い所ではないが」
「それでも、ね」
「そうか。……ところで、今日の吸血はまだか?」
そういえばそうだった。
昨日は時間の関係で、刹那に飲ませてもらうしか無かったのだが……さて、今日はどうしよう。そう思っていると、目の前に腕が伸びてきた。飲め、という意思表明。
「他のやつらを起こす気か?あと、もう少しで明日になるぞ」
「少々ならオーバーしても大丈夫だけど……うん、けど、お言葉に甘えて…」