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こんな一コマがあったらいいなぁとかいう。
トリニティ三兄弟の話です。
13.剥げたネイル
その日は、甲高い悲鳴から始まった。
「ネーナッ!どーしたんだよ!」
「ミハエルか…」
ヨハンがネーナの部屋に入って状況を把握して数秒後、やや遅れてミハエルが室内へと入ってきた。
それからベッドの上で涙目になっている末っ子と、小さい範囲だったが紅く染まっているシーツを見比べて、ポンッと手を打つ。
「生理か?」
「ミハ兄……最っ低ッ!」
その言葉と共に投げられたHAROがミハエルの顔面にクリティカルヒット、次男坊は顔面から床に倒れ伏した。顔の下から流れ出ているのは鼻血だろうか……。
というか。
「ミハエル、生理だったら悲鳴の理由がないぞ?」
「いや…血っていったらやっぱり」
「そうか……これ以上は言うなよ」
言ったら第二陣として色々と用意しているネーナから贈られる、新しい砲弾が頭上へと降り掛かることだろう。中にはHAROの充電器なんてものあるので、本当に後頭部に当たったらシャレになりそうもない。
ハァと溜息を吐いて、転がっていたHAROに救急箱を取ってくるようにと頼む。ネーナはあんな状況で、ミハエルはこんな状況。さらに、自分が離れるとケアをする人間がいなくなるので彼に頼らざるを得なかった。
「シャーネーナ、シャーネーナ」と繰り返しながら離れていく球体は、言っていることととは裏腹に…仕方ないから、というよりは率先して行く感じだ。何か移動が速かった。
直ぐ傍に倒れるミハエルを見下ろすことなく、遠ざかっていく背中を見ながら言う。
「見ろ、ミハエル。お前がここに来た時のスピードより、間違いなくHAROの移動の方が速いぞ?ネーナを溺愛しているお前にしては、こういうことに関して別の何かに負けるのは珍しいが…どうかしたのか?」
「あ゛ー…急いで行こうとしたら、ベッドから落ちて痛くて動けなかった…」
「……成る程」
納得である。
彼にとって、それ以上の遅れ方はないだろう。
「ヨハン兄、ミハ兄はどーでもいいからこっちー!」
「あぁ、それもそうだな」
「それもそうだなって……兄貴ひでぇ!」
「ネーナの方が重傷だ」
ガバリと起き上がって叫ぶミハエルに一瞥を送り、部屋にあったティッシュを手にとってネーナのいるベッド、その縁に座った。
「右足だったな?だから早めに爪を切っておけと言ったんだ」
「うん…ごめんなさい」
「分かればいい」
身をもって思い知ったのだから、ネーナもこれからは気をつけるだろう。
ついと視線をやってみれば、まだ状況を把握できていない様子のミハエルが瞳に映り、苦笑しながら説明をしてやることにした。蚊帳の外、は可哀想だろう。
「布団に引っかかって、右足の小指の爪が剥げたそうだ」
「え」
「…痛かったんだよ?」
「とまぁ、そういうことだ」
それであの悲鳴である。
理解してしまえば……全く、納得する以外の道はない。
「しばらくティッシュで傷口を押さえておくか。HAROが戻ってきたら、ちゃんとした応急処置をする。それから、しばらく激しい運動は慎むこと。良いな?」
「うんっ!」
「……本当に分かっているか?」
あまりにいつも通り過ぎる返事に些か心配になる。こういうときは……そう、無茶をしたりする事がある。
ネーナに関してはミハエルは甘すぎるし、HAROを見張りに付けていればいいか……と、ティッシュを数枚ほど取りながら思う。
ただ、そう上手くいくかどうか。
絶対に問題を起こすだろうな…と確信めいた物を感じ、トリニティの長男は深い溜息を吐いた。
ヨハンは苦労人だと思う。
ロックオンと並ぶくらいに苦労人だと思う。
ビリーとも並ぶかも知れない。
……とにかく、この三人は確実に苦労人。