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のこすところ、あと五編。
もう少しで二期ですね!
15.チューニング
「グラハム……いつも君の機体を整備している僕に、今回くらい譲ってくれていいと思うんだけどどうかな?」
「それを言うならカタギリ、いつも機体を駆って戦場を飛んでいる私の心労を気遣って、それこそ君が譲ってくれても構わないと思うのだが?」
「君に本当に心労があるんならね。むしろガンダムが来たら嬉々として制止も聞かずに出撃していく君だ、心労を溜めるどころかストレス発散しているんじゃないのかな」
「何故それを知っている!?」
「やっぱり図星か……」
などと言い合いながらも、二人の手は『それ』を掴んで放さない。
何やってんだ……と思いながら、ジョシュアはカップのコーヒーを口元へと近づけた。
「いや、だがやはり精神的消耗は存在するぞ」
「それをも乗り越えてしまうのが、君という存在だと僕は認識しているけど」
「カタギリ、私は自分の出来ることしか出来んよ」
「いや、まぁそれは納得だけど…突然なんだい?」
「従って、ガンダムに会った瞬間にしか精神的回復は望めない」
「ガンダムにあったら出来るんだね…いやはや、やはり君は人間じゃない気がするよ…」
……だから、何の話だ。
確実に話は逸れているのだが、しかしそれでも両者は渦中にある『それ』を放そうとしていない事実を酷く貶したいのだが……それをも通り越していっそ、褒めるべきかとさえジョシュアは思い始めていた。あそこまで別路線へと行ってしまった話題に振り回される事無く、手はちゃんと目的を達成しようと……いや、やっぱり貶そう。
さて、どうやって貶そうかと考えていると、食堂によく見る一団が訪れてきた。
「おぉ、相変わらずやっておるな」
「相変わらずすぎますが…今回はどちらが勝つでしょう」
「おそらく隊長だろう。今日はガンダム特集があるとか言っていたからな…」
「オイオイ…そんなものを流して良いのか?」
エイフマンにハワード、ダリルの三人。
…いや、だから本当に何だコレ。
つい先日にこちらへ来たばかりのジョシュアである。どうやらこの状況が日常茶飯事敵に起こっているのは何となく分かる。が、だからといってそれを受け入れることが出来るかどうかは別問題なのだ。
にしても……あの上級大尉に心酔しているらしい部下二名は良いとしよう。けれど、あの数少なそうな常識人っぽいエイフマンまで受け入れてるのはどういう事なのだろうか。
もしもコレが毎日起こる世界で、それが常識なのだとしたら……いっそCBにおわしてもらった方がいいんじゃないかとさえ、一瞬(本当に一瞬)だけ思ってしまった。
と、それはともかく。
「ええい、聞き分けのない!今日だけは譲れんのだ!何と言っても我が愛しのガンダムたちが取り上げられる回なのだから!今日を逃してどうしてガンオタを名乗れようか、否!そのようなことは誰も許しはしない!」
「ガンオタってどこから輸入したんだいそんな言葉!というか、聞き分けが無いのは君の方だよ絶対にね!頑固だとかそういう問題じゃないよこれ!」
「今回の議題に関しては、ネット上で知り合った知人と掲示板で討論をすることになっている!とにかく聞き逃すわけにはいかんのだよ!というわけでカタギリ!」
「ダメダメダメダメ!」
「……後でドーナッツをおごる」
「うっ!?」
その一言で力の緩まった技術顧問の手から、上級大尉は素速く『それ』を奪い取った。
カタギリがハッと我に返ったときにはもう遅く、グラハムは嬉しそうに『それ』を弄っている有様。こうなれば、彼の手出しは不可能だとさえ言えた。
ガクリと床に手を突くカタギリを見ながら、いつの間にかジョシュアの隣に、向かいに座っていた三人が苦笑を浮かべる。
「やっぱりか。隊長のガンダムへの愛情は何者にも抑えられない…と、昨日本人が演説をしてた、そんな前科持ちだしな。確か場所は…」
「ここだろう、ここ。いやぁ、あの時の隊長は本当に楽しそうだったな」
「あとはもう少し周りを顧みてくれたら良いんじゃが…」
思い思いの事を口にする彼らの声をBGMに、ジョシュアは再びコーヒーを口に含んだ。『それ』……ラジオのチューニングを楽しそうに弄っているグラハムの姿を見ながら。
……というか、先ほどからずっと思っていたのだが。
「通信端末にもラジオを聞く機能くらい付いてないっけか…」
・裏話・
ネット上で知り合った知人=刹那